医学ランキング
藤本蓮風さん(写真左)と児玉和彦さん(同右)=奈良市「藤本漢祥院」
鍼の知恵を語る「蓮風の玉手箱」をお届けします。和歌山県岩出市の医療法人明雅会「こだま小児科」理事長で医師の児玉和彦さんと、鍼灸学術団体「北辰会」代表の藤本蓮風さんとの対談の9回目。前回は、東洋医学的には癌(がん)は「熱」で、熱を冷ます清熱法が基本ですが、お灸で熱を清する方法もある。一方、西洋医学の放射線治療と抗癌剤治療は「熱」だという話でした。一見、矛盾する治療の両方で成果が出ることを、どう捉えたらいいのか…。今回はその問いに対する考察です。(「産経関西」編集担当)
蓮風 東洋医学では癌は「熱」で、少なくとも西洋医学の放射線治療と抗癌剤治療も東洋医学的にいうと「熱」ということで、話が面白くなってきました。
児玉 それに関して、今ちょっと考えが思い浮かんできました。話が長くなるかもしれないんですが、順番に説明しないと分からないと思うので…。
たぶんですね、その矛盾というのは、西洋医学と東洋医学という矛盾もありますし、学説的な矛盾点というのもありますよね。本来は熱と捉えるべきものをそうではないと捉えて、たまたま治っているのを治っていると言っているケース。なんというんでしょうね。病気とは何かという、定義とか考え方とか、たとえば、話がずれるかもしれませんが、地球が回っているか月が回っているかみたいな。
ちょっとおかしいかもしれませんが。前提となるのが、天文学的にはどっちが正しいというのはあると思うんですけど、それとて相対的なもので、真実かどうかは本当のことは誰にも分からない。『マトリックス』という映画がありましたけど、この現実世界が本当かどうなのかは実は誰にも分からない。おそらく、まあ本当なんでしょうけど…。これが本当なのかどうかという医学的な真実が、医学によって違うということは、矛盾ではないと思うんです。
蓮風 ああ、そうですか。
児玉 …というのは、たとえば、東洋医学の中でも、治し方って違うじゃないですか? そこにある根本的な考え方も、前提となる病気の捉え方ってそれぞれ違うじゃないですか? インド医学のアーユルヴェーダの考え方、数字が3だか5だか忘れましたけど、なんかこう違うんですよね。根本的なものが違う。他にもありますよね、代替医療といわれるものとか…。それこそ色んな…。
蓮風 民間医療ですね。
児玉 そういうのって現象をみて、そこからこれが真実だと思う、確からしいと自分たちが確信するものが違うってことなんですね。これは矛盾ではなくて信念の不一致。
蓮風 信念?
児玉 信念の不一致。信念。思い込みやと思うんです。はっきり言って。言い方が悪いかもしれないんですけど。なんて言ったらいいですかね。真実っていうのが分からない以上、真実って、これ真実だと言った瞬間に、たぶん真実でなくなると、先生は以前、おっしゃってましたよね。
蓮風 哲学。
児玉 そういうものだと思うんですよ。となると、自分たちの医学にもとづいて「これが真実だ」と言った瞬間に「それって、本当なん?」ってなりますよね。結局、信じているか信じていないかという問題が結構大きくて、これを矛盾として捉えることもできるわけです。自分たちのフレームから考えると、この考え方は矛盾している、と考えた場合に、患者さんのためを思ったら、我々は何をすべきかと言うと、矛盾をみつけて、なお相手の医療を尊重することだと。
蓮風 そこなんですね。結局、患者さんがどんだけ救われるかということの問題やね。ただね、実践としての臨床をやっていくとね、その矛盾を矛盾のまま置いておくわけにはいかないのでね。
児玉 だから結局、臨床家としてやるべきことは、自分がやっていることが上手くいっているかどうかを自分でフィードバックできる能力っていうのが一番重要なんだと思うんです。
蓮風 それは大事ですね。我々の医学では(診断・治療への過程を)「弁証論治」というけど、弁証論治の上手か下手かっていうのはフィードバックがどれだけできるかっていうことなんです。だから、それは一緒だと思うんですがね。自らを弁証論治せないかん。ね?そういうことでしょ(笑)。
児玉 自分が今どういう所で、上手く行かないなら上手く行かないなりに、どういう所ではまっているかという所があるはずなんで。
蓮風 この論はこれだけで2、3時間かかりそうなので、また別の機会に児玉先生の独演会を開きたいですね(笑)。〈続く〉
コメント
このブログにコメントするにはログインが必要です。
さんログアウト
この記事には許可ユーザしかコメントができません。