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鍼(はり)の知恵を語る「蓮風の玉手箱」をお届けします。和歌山県岩出市の医療法人明雅会「こだま小児科」理事長で医師の児玉和彦さんと、鍼灸学術団体「北辰会」代表の藤本蓮風さんとの対談の13回目です。小説や映画にもなった江戸時代の医師、華岡青洲をめぐって「統合医療」の可能性について語られています。別の面から見ると、医師の技術や知識とは何か?という問いの答えを探る試みでもありそうです。「名医」の“意味”について考えるきっかけにする方もいらっしゃると思います。前回からは児玉さんから蓮風さんへの“質問編”で今回もその続きです。その前に児玉さんの活動のひとつを紹介させていただきます。

 児玉さんは診療とともに著述活動もされています。その成果のひとつが編著を担当した『HAPPY!こどものみかた』(日本医事新報社/4536円)=写真=という本です。子供を診察する若手医師向けの、いわば専門書なのですが、表紙をご覧になってもおわかりのように“やさしい”装丁になっていて、出版社によると、医師だけでなく保護者側からの注文も多いそうです。一般の方々も子供がどのように診察されるか、また大人の病気とはどのように違うのか、といったことを知る手がかりになるからかもしれません。

 この本の「あとがき」で児玉さんは蓮風さんについてもふれ、<藤本蓮風先生には、「医療は人間総合学である」「人間は完成体である」ことなど、医療に対する深い洞察を与えて頂いた>と謝意を表されています。また「答えはベッドサイドにしかない」と言明したうえで<「論文に縛られた医療」を脱却し、その医師「その人に結びついた医療」を行っていくべき>と強調されています。

 では今回の“本番”をどうぞ。(「産経関西」編集担当)

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 児玉 もうひとつ、どうしても聴きたいことがあります。自然治癒についてなんです。すごく大事なことだと思っていましてね。結局、西洋医学も自然治癒を活かさないと治らないんです。抗生剤や抗菌剤を使えば、菌は減るのですが、菌を減らしても治らない人というのが世の中に必ずいるんですね。

 ですから自然治癒というのをどう考えるか、というのがすごく大事になってきます。そういう意味では、僕は西洋医学でも東洋医学でも(自然治癒という)同じものを利用しているともいえます。(どちらの医学でも)原理は一緒だと思うのですけど、東洋医学における自然治癒というものを、先生はどう捉えていらっしゃいますか?

 蓮風 いろいろとあって一言では難しいですけど…。一言にすれば、自然治癒を大きく推し進める医学。それが鍼治療だと思います。だから少なくともそれを妨げるようなことはやっちゃいかんので、そのために「脈診」をしたり舌をみたり(顔の色や様子などを診る)「顔面気色診」をやったり「体表観察」をやったりする。そういうことだろうと思います。
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 児玉 その鍼の治療にはいろいろステップがあると思うんですけど、問診をするとか、話をする、診察をする、実際に鍼を刺す、そして抜いて…。先生はほとんどの患者さんに一言かけますよね。その一言まで含めて診察室から出て行くまでの間、そういう一連の流れはすべて重要だと思うんです。けれど、どこに鍼を刺すっていうことって、その診療過程の中では、どれくらい重要なのかなって…。

 蓮風 うーん。それはやっぱり重要なことですね。かなり重要なことです。

 児玉 大部分を占めている。

 蓮風 そうです、大部分。それを持って一応治す目処をつけている訳やから。そしてやっぱり、いくら話しても、患者さんの肌に触れる、それから鍼を刺すという行為自体が医療効果としては大きいですね。何もなしで治せればいいけど。

 児玉 難しいですよね。

 蓮風 いや、僕やったらやりますよ。こないだも内弟子が、咳コンコンやりだして止まらんから「目をつぶれ」と言って手を振りかざすと、スパッととれた。できるよ。出来るけども、しかし、やっぱり身体を通じて鍼をする。身体を通じて鍼をやることによって、身体が治るだけじゃなしに心に大きな変化が起こる。

 きょうも精神的な疾患の方がたくさん来ていましたけどね…。そういうことを通じて、これを先生はどういう風に受け取るかしらんけど、私達は身体と心と魂。魂の部分まで病んでるのを簡単に腕だけでは治せないです。だからそれは根気よく鍼を打つ、それから鍼で触れる、そのことによって身体が良くなる。身体が良くなることから“容れ物”が良くなるから、心も魂も安らかになっていく。それが本当の病気の治り方だろうと、こう思っております。

 児玉 鍼を信頼されて、ずっとその思いを維持し、こだわって伸ばし続けてこられた。やはりすごいな思いますね。

 蓮風 鍼のことしか知らんから(笑)。〈続く〉