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藤本蓮風さん(写真左)と川嶋朗さん(同右)=奈良市「藤本漢祥院」
鍼(はり)の知恵を語る「蓮風の玉手箱」は東京有明医療大学保健医療学部鍼灸学科教授の川嶋朗(かわしま・あきら)さんと、鍼灸学術団体「北辰会」代表の藤本蓮風さんとの対談の4回目です。大学で西洋医学を本格的に学ぶ前に東洋医学に触れたことが川嶋さんの医師としての“下地”になったようでしたね。今回は本格的に大学で臨床や研究に関わってくると“西洋医学漬け”になってしまったという、お話。そんな川嶋さんがなぜ再び東洋医学に“目覚めた”のか。それには意外なエピソードがあったのです。(「産経関西」編集担当)



川嶋 東洋医学と西洋医学の両方を勉強しながら、鍼は免疫に関わるのではと考えて、免疫系に絡んだ専門を選ぼうと思いました。本来免疫をやろうと思ったら、臨床では血液内科に行くんでしょうけれども、当時は学生ですから、そういう頭があまりありませんでした。
蓮風 なるほど。
川嶋 たまたま先輩が腎センターに居て、見学に行った時に、腎臓移植を見せられて、当時の免疫抑制の実態を知りました。そういえば腎臓病は免疫に関わる部分が多いと気づいたんです。腎臓は免疫のターゲット臓器ですしね。
また、北海道は腎臓に関しては不毛の地と申しますか、あまり重点が置かれていませんでした。自分としては不得手な方面で、その不得手なものを補う方が良いという感覚もあって、腎臓内科を選んだわけです。そして、最初の数年は完全な西洋医学漬けです。臨床研修も普通に周り、それから研究も自分なりにやりたいことができて、西洋医学漬けの日々を送りました。
蓮風 あー。
川嶋 研究テーマを決めるとき、教授に「免疫をテーマにしたい」と主張したのですが、一向に首を縦に振ってくれず…。
蓮風(笑)
川嶋 そこで卑怯な作戦を考えました。当時まだうちの教室は講座になったばっかりで、大学院生がいませんでした。僕は「研修医」として医局に入る前に大学院(への進学)はどうでしょうと質問したことがあったのですが、まあ無駄だし、自分は(大学院生を)取る気もないから止めとけと言われ、あぁこの先生は(大学院生は)嫌いなんだという印象を持ちました。
しかし、僕が免疫と言うと、駄目だと許してくれない、やりたくもないことをやれとおっしゃるのであれば、研究だけの生活を送る必要があるので、大学院に入って臨床は二の次にしますよ…、と脅したつもりで(大学院生になりたいと言ったはず)だったんです。すごく臨床を大切する先生だったので、断られるかと思ったら、「良いだろう、入りなさい」って言われてしまって引っ込みがつかなくなり、結局、うちの教室の大学院生第1号になってしまいました。

蓮風 うん。
川嶋 そこからは、今度はリサーチ漬けです。基礎系のリサーチをずーっと4年間やって学位を取りました。基礎系の勉強をすると今度は海外に行きたくなりました。“留学病”です。もうあちこちに手紙を書いて。それでOKが出たのがたまたまハーバード大学(米国)だったので、ハーバード大へ留学したんです。
その時は頭も全く西洋医学漬けですので、鍼も漢方薬も自分の中では補助的に持って行くぐらいの感覚でした。留学前に実は(東京)女子医大に東洋医学研究所ができて誘われたんですが、もう頭の中には東洋医学の選択肢はなく、そこに移ろうなんて気は毛頭ないまま留学をしました。
鍼はワイフの肩凝り用くらいのつもりで持参しました。それから花粉症気味だったので、そのための漢方薬も少し持っていきました。ところが、ボストンに行きましたら、花粉症が出ることがなくなってしまい、漢方薬は、お蔵入り。鍼は、かろうじてワイフに使用する程度。とにかく研究の日々でした。研究のシステムは全然違ってますし、もともと日本だったら8時間かけなきゃやれないことが、3分の1くらいの時間でできちゃうので、やはり、この国じゃなきゃノーベル賞は取れそうにないと、半ば大それてはいたのですが、ここでノーベル賞を目指す気持ちも湧いていました。
そんなある日、うちの(実験助手などをする)テクニシャンが、首を寝違えてラボに来まして。痛そうにしてたんで、「治してやろうか?」って言うと、「何するんだ?」と…。「オリエンタルマジックだ」って言って、たまたま鍼を打ったら、あっという間に効いてしまったんですね。それを周りが面白がってですね、俺も俺もって言うんでもうしょうがない。
「じゃあ打ってやるよ」みたいな感じで、みんなに打ったりして、遊びながらやっていたら、ある日、マサチューセッツ工科大学から、「セミナーをやれ」と言ってきました。当然僕がやってる遺伝子の発現調節の研究に関するセミナーだと思っていたら、「そうじゃない、アキュパンクチュアー※だ」と。※acupuncture:鍼という意味の英語
蓮風(笑)
川嶋 「そんなもん、できるわけないでしょ」って、最初は断っていたのですが、しつこいんです。とにかく、うんと言うまで何度も。あんまりしつこいんで、分かった、どうせ(鍼には)無知の連中相手にやるんだから大したことないだろうと思って、受けることにしました。
ところが、そこではたと気づいたのが、鍼の専門用語を英語で一切知らなかったこと。慌ててニューヨークまで車で飛んで行き、紀伊国屋(書店)で探しまくって、1冊だけ英語の鍼の本が見つかり、それを頼りに専門用語を自分の頭の中に叩き入れました。
それでMIT(マサチューセッツ工科大学)でノーベルプライサー(ノーベル賞学者)を前に、鍼の講釈をたれてしまいました。日本人は質問が少ないのが特徴なんですが、欧米人は違います。黙っていてわかる人種ではないので、アメリカやヨーロッパで発表すると、マイクの前に質問者がずらっと並びます。ましてや今回は天下のMITで、ノーベルプライサーもいるわけですから、どんな質問が飛び出すやら、ヒヤヒヤしていました。
ところが、終わった途端に僕の教壇が(受講者たちに)囲まれまして「脈を診ろ」って言われたんです。診ましたら、これはまた非常に分かりやすくって、「liver(肝蔵)が弱いんだろ?」って言ったら、「何で分かるんだ!?」って始まるわけです。さっき話ししただろと。「ここの指はliverを表していて、この脈の弱さはliverの弱さを示していると説明したはず」と。「面白い、どうしてそんなことを日本人はやらないんだ」って言うので。
だから「日本人は頭がかたいんだ」と返しました。セミナーでは見えないエネルギー、つまり「気」の話もしました。日本なら頭ごなしに否定されてしまうような内容でもノーベルプライサーたちはそれを面白いととらえ、気も研究対象にしようというのです。日本人がやらないなら俺達がやっちゃおうかみたいな会話まで飛び出してきました。冗談じゃない!気や鍼まで黒船か?と、突然反発心が湧き上がってきました。〈続く〉

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