蓮風の玉手箱

このサイトは、2011年8月7日~2015年8月29日までの間、産経関西web上において連載された「蓮風の玉手箱」を復刻したものです。鍼灸師・藤本蓮風と、藤本漢祥院の患者さんでもある学識者や医師との対談の中で、東洋医学、健康、体や心にまつわる様々な話題や問題提起が繰り広げられています。カテゴリー欄をクリックすると1から順に読むことができます。 (※現在すべての対談を公開しておりませんが随時不定期にて更新させていただます・製作担当)

カテゴリ: 杉本雅子・帝塚山学院教授との対話


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初回公開日 2011.9.25

鍼灸師の藤本蓮風さん(藤本漢祥院院長/北辰会代表)が「鍼(はり)」の力をさまざまスタイルで語る「蓮風の玉手箱」。今回からは中国文化などを研究している杉本雅子・帝塚山学院大学教授との対談をお送りします。鍼が取り持つ縁で、蓮風さんの中国語の先生もつとめる杉本さんの口からどんな話題が飛び出すでしょうか。玉手箱の蓋(ふた)がまた開いて鍼が開く新しい世界を見せてもらえそうです。(「産経関西」編集担当)

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杉本雅子(すぎもと・まさこ) 岐阜県生まれ。お茶の水女子大学文教育学部文学科中国語学中国文学専攻卒業後、東京大学大学院人文科学研究科中国語学中国文学専攻課程修士課程に進学、同課程博士課程で単位を修得。現在、帝塚山学院大学教授。



 蓮風 先生にずっとここ数年中国語を学んでいながら、いっこうに上達しないで申し訳ありませんけれども、本人は一生懸命やる気でおりますんで(笑)。

 

 杉本 いえいえ、蓮風先生の上達はすばらしいですよ!

 

 蓮風 先生が大学で担当しておられる中国研究、中国語、情報処理、中国語コミュニケーション。専門分野で中国文化、中国現代社会など、すごいこといろいろやっておられるのですが、その中でも特に2年前の、大阪で開催された日本伝統鍼灸学会、わたくし、会頭でありまして、先生にご足労願って「中国伝統文化と中国医学」ということでご講演いただきました。これ非常に好評でした。

 

 杉本 ありがとうございます。

 

 蓮風 やはり内容が濃いもんだから、聞く者が聞くと迫力があって。特に鍼灸ジャーナリストの松田博公氏がとても褒めておりました。さすがいい人を連れてこられましたねと。

 

 杉本 そういっていただくと、私もうれしいですね。

 

 蓮風 そういうわけで、ひとつは先生のご専門の立場から鍼灸や、中国医学についての思いを語ってくださってもいいし、もうひとつは、今、先生にも鍼をぼつぼつ受けておられる、もともとは先生はね、私の患者さんで始まったのだし、仲良くさせてもらって、ご家族にも鍼をさせてもらって、そういうことから、まぁ言ってみれば素人の目で鍼受けられて、こういう感想があるけれど、どうなんだろうか、とご意見を伺ってもいいし、なにかまた別に面白い内容があれば伺いたいし、僕も喋りたいなと思っていますので、よろしくお願いします。

 

 杉本 はじめに、私が最初にまず患者としてやって来たことからお話しさせてもらおうと思いますが。もとはねぇ、急に、今までなったことのないぎっくり腰みたいなのになったんです。ギッギッ、立てない…みたいになって、家で這いながら。(笑)その時、最初に考えたのが、整形外科。整形に行って、レントゲン取って、「べつにどこも悪くないですよ」と言われて、湿布薬をもらう、これで長い時間かけておしまいやね。と思ったとき、「あ、鍼!」とピンと閃(ひらめ)いたんですね。受けたことなかったんですけど、やっぱり自分が中国っていうのをやってるせいか、レントゲンが決めるみたいな、そういう西洋医学のやり方に不信感みたいなのがあって…実は私、母が病気で倒れた時に、感じたんです。母は脳の動脈瘤の出血で亡くなったんですけれど、入院してたんですよね。その日、私が見ても、母の顔がおかしいんですよ。


 で、「おかしいんです」と先生に言っても「え、データは良くなってますよ。異常ありませんよ」と言われて。でも帰ったら、その日の晩に亡くなったんですよ、脳動脈瘤で。もうそこから、データしか見ない医者は医者じゃないという想いもあって。で、特にそういうのが顕著に現れてるのが、整形外科みたいに見えにくい所で、レントゲンにしか頼らないとこかな、というのがあったものですから、鍼、と急に思ったんですね。そこでインターネットで検索してホームページを見せていただいて。でもいくつもあるわけですよ、鍼灸院というのも。沢山あるんですよ。その中で決め手はね、胡散臭くなかった(笑)。胡散臭くないという言い方もおかしいですけど、先生が、うちでは漢方薬その他の販売は一切していませんと書いてらっしゃったんです。


 鍼だけで治す、ということで、他になんかいろんなもの勧めたりしていないと書いてあるんだから、ここはいいんじゃない?と思ったんです。混ざりもののない、鍼だけで先生が向き合う姿勢が見えた、ということなんです。で、やっていただいたら、やっぱり良くなって。でも、その時は1回良くなったんですけど、なぜかちょっとだけぶり返した感じだったんです。そしたら先生が、2回目の時にね、「オレの鍼はそんな安い鍼じゃない」と言われて「怖いわぁ…」と思って(笑)。でもそれでホントにすっきり治ってねぇ、すごいなぁ、不思議なもんやなぁ、こんなふうに簡単に痛みも取れるんだ、薬も使ってないですしねぇ。

 

 蓮風 で、その後、一樹先生がいらして。

 

 杉本 あ、夫が。

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 蓮風 一樹先生が「先生、あちこちが辛(つら)い」と言うから、いつも頭に鍼打ってたら、先生が悪いこと言って。「そんなにアタマ悪かったんや」、言うて(笑)。悪い所に打つわけじゃないとか話したりして、というようなことでだんだん…。

 

 杉本 私自身が夫にも行けだの、娘にも行けだの、行け行け攻勢をしながら、自分はちっとも患者としては行ってないみたいなところはあったんですが。実際は先生に1本しか打っていただけなかったので、「これだけ?」ってすごく意外だったんです。なぜなら中国の鍼は、私自身は打ってはいませんけど、見て知ってはいましたから。こんなに長い鍼、あれは20センチくらい?もういくつも立てて、おそろしいほど沢山、身体に刺さってるのを知ってるんです。鍼とはああいうものだと思っていたので、「え?1本?」という感じがすごくしまして、意外でしたね。でも効くんですから、それはそれでと思ったら、あとで先生が、「ココもココもと刺したら、どこが効いたのかわからなくなってしまうから1本しか刺さない」と説明してくださった。北辰会の手法っていうのがあることを聞いて、それですごく納得したんですね。
 

 で、それがご縁で、もともと中国医学に興味があったわけではないのですが、たまたま伝統の文化が中国でどういうふうに扱われているかという変化が、ちょうど私がぎっくり腰でこちらに鍼に来ていたその頃、中国であったんです。それで自分でそれをテーマにずっと見ていたら、必ず中国医学というのにぶち当たるんですよ。そこがね、これが中国医学の特徴かっていうのをすごく感じたんです。先生もご存じのように、ずっと中国は中西医結合ですよね。中西医結合ということで毛沢東が主張してからそれが当たり前という感じになっていて、必ずしも中医のお医者さんが優遇されている状況ではないというのがあって、なのにそういう伝統文化という話が出てきたときに急にスポットライトを浴びたんですね。中国医学というものがスポットライトを浴びるというその状況がすごく意外な気もし、でも面白い気がしたんです。
 

 というのは、その後に、批判が起こってくるんですが、批判する人は文化として批判するわけではなくて、科学として批判するわけなんです。で、え?科学なの…?科学といっても実験室の科学ではなくて、実際にもう行われている治療法として向き合って、それを科学で解明できるか、みたいなのことを言うんですけれども、でもその前に中国医学って伝統文化なんじゃないの?伝統文化ということは伝統思想があって、その思想がないと生まれなかった文化で、文化なんだけれども実用で使われているというのはほかにはないんですね。中国医学しかないんですよ。文化っていうのは大体、不用品が多いですからね、どうでもいいというか…。

 

 蓮風 そう、ビタミンみたいなもんで。〈続く〉

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 鍼灸師の藤本蓮風さん(藤本漢祥院院長/北辰会代表)と中国を研究している杉本雅子・帝塚山学院大学教授との対談の2回目をお送りします。今回は前回からの流れで伝統文化としての鍼(はり)の話題で始まります。またこれまでとは違った鍼の姿が浮き彫りにされそうですよ。(「産経関西」編集担当)

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杉本
 先生が片手間によくティッシュペーパーを丸めてそれに墨を付けて芸術的な面白い字を書かれますけど(笑)、それも文化ですからね。毎日、絶対それを見てなくちゃいけないというわけではなくて(笑)、でも先生の鍼(はり)を毎日受けなければならない人もいる…。だからそこが全然違うんですよ。芸術はもう、見てたらいいわけですから。自分でそれが毎日必要かというと、必ずしもそういうわけでもなくて。でも中国医学だけは違うんですよ。本当に実用であって、なおかつ文化であるという、ものすごく珍しい。

 

 蓮風 ここんとこ、大事ですね。

 

 杉本 北辰会の皆さん、ものすごく勉強してらっしゃるので、やっぱりこういう形で中国医学ももう一回、本物にかえっていかないと、と思っているんですよね。日本では鍼を受けられる患者さんの数や鍼を受ける目的というのは統計で出てるんでしょうか?

 

 蓮風 この頃、ぼつぼつ出てきてるみたいですよね。厚生労働省が年間にどのくらいかかっているかとか、西洋医学を正統とすると、正統でない医学がどれだけ使われているか、お金をどのくらいかけているかというデータは出てるみたいです。

 

 杉本 まぁ、西洋医学を正統として、その他は…というのがねぇ。そういう感覚になったのは、いつからですか。明治以降ですか?

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 蓮風 明治以前は完璧な漢方医学ですよ。明治に近づいてくるとだんだん蘭方医学が入ってきて、やがて明治政府によって、世界に出ていかないと取り残されるんだと、下手すると清国のようにやられてしまうんだと。だから西洋の文化を取り入れて改革しようと。そこまでは良かったんだけど、自分たちの持っている伝統文化の良いものを全部捨ててしまって、そこが違うんですよね。

 

 杉本 中国でも「中体西用論」というのがあって。大事なところは中国の思想・文化をもとにして残しておくんだけれども、西洋の使える所は全部使おうという考え方が清の終わり頃にあって、その考えとたぶん同じようなものだったと思うんですけれども。でも中国でも成功しなかったですからね。なかなか難しいですよね。先生が前に、「木に竹を接ぐような」と仰ってましたけれど、ほんとにそんな感じなのでしょうね。

 

 蓮風 日本でもやっぱり、伝統文化であり、実用的でもあるけれども、それより科学的でなければ今後は認められないから、科学という光を当てなければ、鍼灸がなんぼ効いた効いたといってもダメなんじゃないか、という流派があるんです。でもそこが違うんですよね。大体、効いた効かないという話は、むしろホントにダメだったら、三千年も続かないですよ。歴史が証明しているし。そんなことよりも、より純粋に『黄帝内経』みたいなバイブルがあるわけだから、それに則ってね、もう一回昔の世界を取り戻して、しかも現実の患者さん、いま病める人たちを治せなければダメなんですよ。ところが面白いことに、古代の学問をやると、漢文が面白かったり、古代の中国理論が面白かったりして、それに留まる人が多いんですよ。あくまでも「実践のための医学」なのに、そういう極端な人たちが沢山いる。その中にあって、北辰会は伝統文化を大事にしながら、しかも鍼の本質は何だろうと、古典とか原典に学びながら、しかも生きた病める患者さんに試しながら追究するという立場に立っているわけなんですけれども。

 

 杉本 先生の本のタイトルで『鍼灸医学における実践から理論へ』というのがありますが、あれはまさに今のお話のことだと思うんです。科学って言っても、今の科学ですよね。二十年前の科学と今の科学は違いますよね。そんなこと言ったら、ガリレオが地球が回っていると言った時にね、それがどうなのよ。

 

 蓮風 それがね、レッテル貼りですわ。これはキリンビールだよ、というのと同じ。科学的なものなんだよ、というレッテルが欲しいんです…。

 

 杉本 科学は科学で自分の都合のいい所に科学という言葉を使うんですよ。で、効かなくなると、統合医療とか、そういうのもやってみるのも価値がある、というふうに言われる。要するに、科学では治せないところを、逃げてるみたいなところがあって。もっと積極的に良い所を認めたらいいのに、と思いますけれどね。

 

 蓮風 伝統医学の中にもすでに科学があると思うんですよ。なぜかというと、病気治しなんていうのは、まずこれこういう理論で成り立つなと思ったら、まず仮説を立てなくてはいけない。それを鍼1本打って、実験やる。それで効いたか、悪化したかと、その中で検証していく。明らかに仮説→実験→検証という形で、科学のパターンを踏んでいる。ただ、その土台になるものが形を中心とする哲学なのか、形でないものが世の中の本質なのだという世界観の違いがある。科学という点では、私は立派な科学だと思う。だからこのツボをこうしたらこうなるよ、というふうに皆に教えることができるんです。

 

 杉本 要するに西洋医学の科学はミクロ科学なんです。範囲の狭い。東洋思想の中の科学というのはもっとマクロな、天まで宇宙まで引き込んだ科学なんです。自分たちの狭小な科学という概念をもってきて測ろうとするから、理解できないんですよ。そうでなければそんな昔から今まで残らないですよ。自分たちの使っている科学という言葉の定義と相手のものが違うというだけで、認めないんですね。いつかこれが逆転する時がくるかなと思いますけど。所詮、現時点での西洋の科学で解明できることだけが科学だと思う「科学万能主義」なんでしょうね。先生の著書『鍼狂人の独り言』にも書いてありますが、先生が治されている色んな症例がありますよね、あれを西洋の医者たちはどういうふうに説明するんでしょうね。よく言いますよね、「奇跡だ」、とか。

 

 蓮風 いまね、不思議なことに北辰会にはね、ドクターが近づいてくるんです。昔の医者はあんなんじゃなかったんだけれど、本当に治ればいいじゃないかと、科学的証明なんかできなくても事実が大事なんだと言いますね。そういう人たちがだんだん集まってきて、医学生も学びに来ている。

 

 杉本 いいことですね。

 

 蓮風 いいことなんですよ。僕はとにかく事実を見てくれと言う。事実から色んな理論が出てくるから。ひと昔ならね、僕はこの病気をこういう鍼で治してるというと、医者はすぐに説明するんです。「ここの自律神経が刺激して…」と(笑)

 

 杉本 (笑)

 

 蓮風 もう説明はいいじゃないか、僕らがやってる事実を見てくれと思うんですけれど、医者たちは自分たちが持ってる医学で説明しようとするんですね。

 

 杉本 今自分たちで説明できるものだけが科学なんですよね。でももし科学が万能なら治せない病気はないはずだし、奇跡なんて言葉も存在しないはずだし。だからその辺は、西洋医学の人たちも自分たちの限界はわかっている、あるいはわかっている人が北辰会に見に来るのかもしれないですね。私も、自分の周りの人にも鍼、薦めてるんですよね。同僚の赤ちゃんがものすごいアトピーだったらしくて、スーパーで買い物してると大阪のおばちゃんが赤ちゃんの顔をみて絶句するくらいだったというです。それで先生の本『アレルギーは鍼で治す!』を見せたら、試す気になったんです。その人もいろんな所に行ってたみたいなんです、漢方薬もやったり…。でも鍼に行ったらよくなったそうなんですよ。〈続く〉

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 鍼灸師の藤本蓮風さん(藤本漢祥院院長/北辰会代表)と中国を研究している杉本雅子・帝塚山学院大学教授との対談の3回目をお送りします。ご自身の体験をもと「鍼(はり)」を語る杉本教授と蓮風さんのやりとりを待ちかねていた方も多いようです。というわけで、前置きはこれくらいにしないと…。おふたりの鍼談義をお楽しみくださいね。(「産経関西」編集担当) 

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 蓮風  歴史的に見ると、我々が子供の頃は先生、「くさっぱち」いうの…。

 杉本  あれは多かったですね。

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 蓮風  あいつはなぁ、生の芋(いも)食べたり、生ものばっかり食うからあないなるんやって。頭にねぇ、おできみたいなんが、いっぱいできる。これを「くさっぱち」言うんです。

 杉本  切られました頭を。

 蓮風  ぼくらも切られたよ。

 杉本  手術されました。手術というか、切開みたいなのをされる。

 蓮風  今の子をみるとそれがない。

 杉本 中に溜まっちゃうんですかね。

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 蓮風 ところが、アトピーとか喘息になる。だから、生活の変化、特に食べ物の変化が大きいんだろうと。不思議なことに、インドネシアの方の原始的な生活をする人達は、あんまりアトピーないんですよ。調べるとねえ、不思議なことにお腹に回虫がおる。

 杉本  寄生虫でしょ。そうそう。お腹に寄生虫を飼ってるとアトピーにならないって言いますよね。

 蓮風  そうそう。寄生虫を飼っていると(笑)。

 杉本  大事に飼っておかないと(笑)。

 蓮風  何がどうしているかわからないけど、とにかく生活が変わった。

 杉本  そうですね。昔の子なんて本当に虫下しの薬を飲まされましたよ。

 蓮風  まくり? 海人草?

 杉本  なんだかわからないんですけど、飲まされたんですよ。虫下しっていうのを。蟯虫(ぎょうちゅう)検査なんて必ずやりましたしねえ。その頃はあまりアトピーなんてねえ、言われてなかったですよね。

 蓮風  ないない。その代わり、今はくさっぱちはないねえ。面白いですねえ。

 杉本  さっきの子(前回参照)の話に戻すと。その子、この間、たまたま職場の大学に連れてきてらっしゃって、「どう?」って聞いたら、「綺麗になったんですよ」って。いろいろ食べ物の制限をしているけど、綺麗になりましたって。見たら本当に綺麗になっていて。すごく可愛い子なんですよね。先生が時々、人助けだとおっしゃいますけど、私まで、「人助けした」みたいな感じがして(笑)。

 蓮風  それって一つ、なんていうか、このサイト(「蓮風の玉手箱」)のテーマなんですよ。あのね、知っとって治療をしないとかね、それは趣味だと思うんですよ。西洋医学はそれはそれでいいんや。ただ、残念なのが、鍼がこんだけの効果があって、病気を治してきた素晴らしい実績があるのに、それを知らずしてね、治る病気が治らなかったり…。私は口惜しい。

 杉本  本当ですよね。

 蓮風  そのためには、ちょっとずつでも素人さんにわかってもらおう、っていうことが私達の運動なんですよ。

杉本  私なんか、誰かが調子悪いって言うとついつい「鍼」って言っちゃうんですよ。いい先生いるよ、学園前だけどって言ったりして。やっぱり、選択肢として鍼を受けるっていう選択肢を持っているか持ってないかって、全然違うと思うんですね。まあ、自分がそれを体験した、身をもって実感したからこそ言えるって部分があるんでしょうけど、選択肢としてそれを持っていないとね。普通は日本の患者はやっぱり一番には西洋医に行きますよね。行って検査してもらうってことが当たり前で、私もまぁそれはするんですよ。現状認識は大事ですからね。するんですけれど、検査は検査。検査結果を受けて、さてどう治療するか、そこは自分で選択したいですね。先生もよく(鍼灸治療をする内科医)の村井和(むらい・かず)先生と写真なんかで、治ったかどうかのチェックをされたりしますよね。

 蓮風  あの、ぼくはね、村井先生とのコンビを組んでやっているのは、先程言いましたように、この医学は形のない医学。これが治ったと言うことを説明するのは、先程のアトピーの患者が治ったと言うのは誰が見たってわかる。

 杉本  そうですね(笑)。

 蓮風  ところが、内臓の病気とかもっと重い病気の場合は、簡単にわからん。それを我々は脈とか舌とかでちゃんと証明できるんだけども、世間にはわからん。そこで、たまたま形を専門とする西洋医学の村井先生は、特に東洋医学に対するシンパですから、西洋医学もやっておられるんで、先生こんなん治ったらこれ西洋医学的にどうなるかなってことで、できるだけ形に表してもらって、それが今、『鍼灸ジャーナル』という専門雑誌の難病診療シリーズになっている。ただ、先程の根本問題は、その形のない医学やから、形に出ない場合がよくある。実際はよくなっとっても。それはどうするかっていうとね、今後の問題ですわ。事実として私はとにかく残す。西洋医学でいくら検査しても治った証明にならないことってたくさんあるんです。

 あのね、例えば目が悪いとするでしょ。緑内障で何人か治したんだけども、西洋医学の視力検査に出てくるやつもあるし、全然出んやつもある。せやけども、現実に今まで見えんかったやつが見えだしたんだから見えてるわけや。だから、それが数値に現れないっていうだけで、効いてる、効いてないっていうものさしがやっぱりおかしい。

 杉本  そうですよねえ。うちの犬が一回ね、何食べても吐く時期があってかかりつけの獣医さんに連れて行ってる たんです。そのとき検査したら、「すごく肝臓が悪くなってる」って…。で、蓮風先生に相談にうかがったら、金属の串?棒?みたいのをチョンチョンって犬の背中に撫でるようにやってくださって、そしたら、すごく元気になっていったんです。あぁよかった。治ったわ」って思って、で、病院にいって血液をしたらね、その獣医さんがね、首かしげて言うんです、「おかしいな…こんな肝臓の値で」って。血液検査の値はよくなっていなかったんですね。よくないんですけど、この状態とこの血液検査の値が全然あってない。信じられないって。こんなの有り得ないって。もう獣医さんの頭、クエスチョンマークいっぱいになってしまって。

 蓮風  だから、そこに、生命というのも見方の違いがあるし、治った治ってないってことの基準がなんなのか。ぼくは患者さんが「あぁ楽になった」って日々の生活に問題なく生活できればねぇ、それは治ったとみていいと思うんですよ。

 杉本  でもね、少し遅れて血液検査も良くなっていくんですよ。別に薬も飲んでないのに。

 蓮風  そうそうそう、遅れて良くなって行く場合もある。

 杉本  少し遅れて良くなっているんです。良くなっているんだけど、とにかく再検査のあとで、出てくるなりね、首かしげて、「おかしいなぁ…この元気な様子とこの血液検査の結果は全然一致しない…。本当に不思議でしょうがない」 。

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 蓮風  だからね、それは昔の思想に戻ると、「形」というものは無形の「気」から成り立つ。で、気が先行するんです。それをぼくが説明するのに、「歩く足」と「歩く足がつけた足跡」の問題、足跡は形なんです。だから気が先行すると、先程のデータは遅れているかもしれない。

 杉本  うーん。あるかもしれないですねぇ。本当にねぇ。全体からじっくりとね。元々、まぁ東洋医学って、劇的な変化をバンって急に起こすものとちょっと違いますよね。

 蓮風  違いますねぇ。

 杉本  体調を整えるところから始まる。

 蓮風  だから、ある患者さんは面白いこと言って、私のところに30年かかっている患者さんが、「今、私風邪を引いているけれど、西洋医学にかかっても治るんだ。先生の鍼を受けても治る。でも、どこが違うかって言うとね、非常に気持ちよく治る。西洋医学やってね、注射一本打って、気持ちよく治った試しがない」って。だから、これは趣味の問題かな。

 杉本  趣味ですか(笑)。

 蓮風  うん。だから、私は気持ちよく治る医学。病気が治るか、治らないかって言ったら風邪も治る。せやけども、不思議なことだけれども、鍼を打ってもらうと気持ちよく治る、っていうこと言いましたね。これはまた一つの、医学の違いが出ているんじゃないでしょうかね。

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 杉本  でも、逆にね。この間の、私のギックリ腰の時には、一回で劇的に治るわけですよ。

 蓮風  そうそう。

 杉本  そこら辺がねぇ、すごい、不思議でしょうがないですよね。で、どういう違いがあるんでしょう?ゆっくり治るタイプと、即効性のタイプ…。

 蓮風  それはねぇ、「身体」と「病気」と「タイミング」ですわ。はい。だから、それ3つをふまえて、ちゃんとやったら、いつでも即効的ですわ。今日も、あの乳癌で、左の乳癌を取って、左肩があがらんかった患者が来たんや。それでぼくが左足のこの、外くるぶしの辺に鍼を一本打った。すると左肩が動き出した。だから、古いから時間がかかるっちゅうわけではない。今言うように、いろんな条件があって、条件をたくみに利用すると早い。

 杉本  なるほど。でもね、選択肢の一つに鍼があって、治ることを知らない人に教えたいって先生はおっしゃったけど、どの鍼もいいっていうわけにはやっぱりなかなかいかないですよね。

 蓮風  そうそう。だから、それはね、この業界の側の問題なんです。これはやっぱり、一つはあの明治時代にとにかく、鍼灸、按摩をひとからめにしてね、社会福祉的な立場で、政府はある意味で援護したと。逆に言えば、それがもう医学としては堕落なんです。その程度の勉強しかしない。それからそれがもう常識化してやはり、本当にすごいことやっているのに、昔の鍼はすごかったのに、そういう勉強を一切しないでやる。だから、段々、段々レベルが落ちた。そして、それをなんとか糊塗しようとして科学的な装いをする。さっきのレッテル貼りをやりだす。どこそこ大学の先生はこの鍼はこう効いたっておっしゃったっていうね、レッテル貼りをやりだす。おかしい。本当に効いたら、そんなもんどうでもええやん。だから、本当の勉強をして、本当の鍼をやれば、必ず患者さんは付いて来る。そのことをずっと私は40年間叫びっぱなし。未だにこう「独り言」とかなんだかんだ、ガムテープ貼られても、はがしてしゃべっているというような実態がある(笑)。 <続く>

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中国を研究している杉本雅子・帝塚山学院大学教授と鍼灸師の藤本蓮風さんとの対談の第4回をお届けします。内容はさらに率直さを増して「過激」と感じる方もいらっしゃるかも…。対談発信の場を提供させていただいている「産経関西」は異論・反論も受け付けます。医療は患者や社会のために存在するのが本来の姿ですから、その実現のためにも、さまざまな立場からの発言は常識の範囲内で歓迎します。今回は蓮風さんが代表をつとめる「北辰会」が対談を収録した動画の一部も公開します。少々、音声などがよくないですが、雰囲気を感じてみてください。(「産経関西」編集担当) 
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 杉本  この頃ね、西洋のお医者さんでも鍼灸みたいなことをやる人がいたりするじゃないですか。これ、前に、中国語の教室のときにしゃべったと思いますけど、テレビで「夏の女性の病に効く鍼(はり)、これだけを知っていれば○○が治る」みたいなのをやってたんで、ちょっと期待して見てたんですよ。でもね、そこでやってたのって、肩が凝(こ)っている人だったら、肩に鍼を、だったんですよ。えっ、肩凝ったら肩?って、それは私、自分でも普通に触るし、当たり前じゃないって。でも、先生のところで鍼を打ってもらおうと思うと、うちの夫じゃないですけれど、頭悪くないのに頭に鍼がくる(笑)。
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 蓮風  あっはっは(笑)。あれはおかしかった。

 杉本  私には楽しみでいいんですけれど、また頭、やっぱり頭悪いのねって言えますからねぇ。でも、先生は、私の背中触って、ここがおかしいって言いながら、今日は指とか、お腹なのに足とかね。そういう全然違うところに鍼がくる。そういうふうに打ってくれる先生ばかりじゃないですよねっていう意味だったんです。つまり、症状が出ている場所が鍼を打つべきツボっていうのは本当にそうなの?っていうね。これって、もしかしたら、鍼灸学校の教育ですかね?

 蓮風  そうそう。

 杉本  北辰会だったら古典から学んで、本当の理論みたいな、そこにある中医学の思想って言うんですかね、そこのところを学んでいるけれども、鍼灸学校で、その大本を抜きにして、「はい、ここにツボがあります。で、打つときはこの角度で、こうやって刺しましょう」みたいなことだけをやってきていると、結局、西洋医学で、「あぁ風邪?頭痛い?はい頭痛薬出します」っていうのと、同じことになっちゃうんじゃないかなって思って。

 蓮風  一緒、一緒、全く。全くその通り。

 杉本  そしたら、東洋医学じゃないんじゃないですかね。いってみれば、頭痛薬に変えて鍼を持っているだけの対症療法になってしまう。だからそこら辺は確かに先生がおっしゃったみたいに、鍼全体の問題としてはあるかも知れないですよね。まぁ、それ、中国の問題としてもあるんでしょうかね。
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 蓮風  そうですね。いやぁ、僕もね、あの本当は中国医学にもうちょっと憧れとったんです。先生の講義を聞いたり、それから中国語を通じての中国文化を聞いてるうちに、段々、段々、現実が見えてきてね、「ブルータスお前もか」っていう感じ(笑)。

 杉本  私が中国を貶(おとし)めているみたいな(笑)。犯人にしないでくださいね。だけど、実はね、広州中医薬大学の学術大会、論文の締め切り8月31日(注:対談は8月4日)でいいよって言われて、書きかけているのがあるんですよ。中国医学っていうのはこのままでいくと、将来的に、中が本当にふるさとだったのか、韓なのか、日なのか、それとも全然よその文化になってしまうのかっていう問題があって、そうそう、他の多くの文化みたいに、本場だったはずの中国ではなくなってしまって、中国へ行ったけれど、本当の中国医学はもうないっていうね。今、実は中国、後悔しているんですよ、それを。かなり韓国にいろんな文化を持っていかれてしまって、それに気付いた。気付いたけれども、なかなか難しいですよね…。一回失ったものは。なかなか取り戻せない。もう、一朝一夕では無理なんで、ものすごい時間がかかる。それを今、やる気があるかどうか。広州の鄧鉄涛先生なんかそれで頑張っているんですけれどね。今やらないと…。

 たとえば中国のドラマなんかを見ていても、鍼が出てくるってことがないんですよ。鍼の医者をテーマにしたようなドラマとかはあるんですよね。でも、まぁ普通のドラマに出てくるような日常生活で、鍼を受けに行っている姿みたいなの、あまり見たことがないんですよ。多いのは、西洋医の病院に行って、お金をたんまり包んで手術してもらうとかね(笑)。そんなのは多いんですけどね。それに引きかえね、韓国のドラマを見ていると、しょっちゅう出てくるんですよね。ちょっと、食べ過ぎた、胃がもたれたとかだったらね、このくらいの石鹸箱みたいな大きさのを出して、カパって開けて、中から鍼出して、「手出してごらん」って言って、ここら辺にちょんってなんかして、瀉血みたいなことしたりもしますね。それでこれで気分が良くなるんだよって言って、ある時はまたなんか「お父さん!清心丸!」って言って牛黄清心丸を、かぁーっとなっちゃったおじいちゃんに飲ませたりね。そういうの見てると、韓国の方が、中国より遥かに日常化している。


 で、日本は日本で、また違う。私たちだれも、普段から鍼を習ったりはしてませんからね。で、どういうふうにこれからなっていくのかなってとこに私の関心はあるんですね。中国は中国で、本家を取り戻す気があるのか、韓国は韓国で韓国のツボってのを発表して、これがまた中国との揉め事の種になっていますけれども、鍼を輸出するものとして推したりして。韓国が海外へ売れる輸出品みたいにね。中国はどっちかっていうと「中国薬」の方を輸出品ととらえて推してる。

 蓮風  そうですね。「中医薬」です。

 杉本  中国薬、漢方薬の方を売り出す気は満々なんですけれどね、なかなか鍼灸の方にはいきにくい。たぶんそれはね、鍛錬が必要だからだって思うんですよ。薬はものですから、簡単に売れるしね。でも鍼はそういうわけにはいかない。勉強があって、本当にどこにどうやって打ったら治療できるかってことがわかっていないと、売れない。鍼灸を売り出すってことは、つまり人間ですよね、鍼灸ができる人間。だから、むつかしい。

 蓮風  だからねぇ、中国医学の歴史の中で、中国の唐の時代の漢方医学の専門書なんだけれど『外台秘要』っていうのに、薬は確かに効くんだって。ところがねぇ、鍼を用いると、人を殺すことはできるけれど、治せないって。専門書が書いているんです。歴史的にみるとね。またそれに対する反論の本もあるし。だから、中国医学自体が、そういう、この今先生がおっしゃるようにテクニックに関わって、非常にやっぱ難しい医学やなっていうことがあった。それがまた、最近では近代ではその清朝にね、鍼をやるなという。一時的に鍼の禁止令が百年から百五十年くらい出ているんです。危なくって、人の病気を治すどころじゃない、あれは殺すぞと、そういう認識があった。だからねぇ、鍼灸は漢方医学の中で特殊と言ったら特殊なんですねぇ。

 杉本  そうなんですね。薬とは違って、さっき先生がおっしゃったように、速効性もある。速効性があるってことは、そういうちょっと紙一重みたいなとこがね。

 蓮風  そうなんです。いやっ、昨日ね、また面白いんですけれど、京都大学出の30歳代の秀才で、「西洋医学はだめなんだ」って最初から言うんですよ。で、そのくせ自分は某学会の講師をやってらっしゃるんです。で、自分が腰痛いんで、いろいろやったけれど治らん。そこで、当院で、ちょっと鍼をしてみた。「鍼した後どうやった?」って聞いたら、「なんか息が止まるくらい眠くなった」って。

 杉本  ほぉ。

 蓮  これ効いた?って聞いたら、「間違いなく効いてる」って言った。だから、この方もドクターなんだけれどね、今は若い人が意外とねぇ、なんらかのきっかけで一回鍼を受けたら、鍼が効くんだってことを知っていますね。下手に、年寄りはもうだめですわ。

 杉本  頭かたいですからね(笑)。

 蓮風  うん。意外とね、若い人はねぇ、自分で体験した事実を言いますから、あの、僕はそういう意味でちょっと希望が持てるかなって、そういう気がしてるんですわ。まぁ、先ほどの中国の話、韓国の話があるし、日本の伝統医学とかなんとか言っているけどね、まぁそれはそれとして大事なことなんだけど、問題は患者さんがついてくるかどうかなんです。医学なんだから、先ほどの話、伝統文化であり、実用の学なんだから、それは実際に有効でないと意味がない。

 杉本  そうなんですよね。まぁ文化として学ぶのは、その鍼の先生達に学んでいただくとして、私たち患者にとっては、治ればいいだけのことですけどね。

 蓮風  患者にしたらね。

 

 杉本  患者にしたら、別に理論はどうでもいい、治ればいいっていうのが本音。本当に効いたらいいんですよね。なにかで証明されなければいけない訳じゃないですから、治ることが要件なんで、知りたいのは治るかどうかってこと。でも先生たちには治すために勉強してもらわないと。

 蓮風  そうなんです。そこから発して、東洋医学の原点に戻って、そしてその理論を使うと、先生ご存じかなぁ、先天的な病、血友病による出血が止まらない、当院のある患者、様子が改善してきましたよ。

 杉本  えっ。男性に圧倒的に多いとされる遺伝子病、遺伝病ですよね。

 蓮風  出血が止まらんようになる、血液の凝固因子云々の問題で止血しにくくなる病気です。

 杉本  あれって、先生すみません…。遺伝子の問題じゃないんですか?


 蓮風  だから、それが西洋医学なんです。

 杉本  そうそう。だから、今それで聞いたんです。あれはあの、学校で習っていますから。血友病イコール遺伝病、ってことは遺伝子が悪さしてるなって思ってますから。

 蓮風  とりあえずは、その、遺伝子の病。西洋医学的に、今の常識ではね。それと、もう一つはダウン症。それはよくなるよ。

 杉本  ダウン症はねぇ、先生のところで何人か見ましたけれどね。

 蓮風  よくなる。

 杉本  顔が変わってくるって。

 蓮風  これはねぇ、やっぱり今言うようにねぇ、理屈はともかくねぇ、事実として起こるんですよ。だから、何で?って言われたら、あんたら説明してって(笑) 。説明して欲しい。ただ、鍼を上手に巧みに使って、あの、『素問』『霊枢』の教えのように局部に鍼するんじゃなしに、気の歪みを治すと、そういう理論でもってやれば、ある意味で奇跡みたいなことを起こすことができる。〈続く〉

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藤本蓮風さんと杉本雅子・帝塚山学院大学教授の「鍼(はり)談義」はまだまだ続きます。今回は前回、蓮風さんが「理論によって気の歪みを治すと、奇跡みたいなことを起こすことができる」と強調した、その続きです。人間と宇宙や気象との関係に話題が広がっていきますよ。(「産経関西」編集担当)
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 蓮風 それが鍼の本質だと私は思って、「北辰会」を立ち上げて40年間で発展してきてるわけです。

 杉本 もうね、いっそのことね、鍼灸の先生がみんな北辰会やったらね、安心して受けられると思うんですよ(笑)。

 蓮風 そうそうそう。でもね40年かかって、昔はねぇもう相手にされなかった。今はもう北辰会なしに日本の鍼灸は語れないとこまで、先生、本当にそれは事実なんよ。そこまでたった一人の男ががんばってみんな引っ張って

 杉本 だってね、中国に行って(中医学の権威として有名な)鄧鉄涛先生とか、●(=「折」のてへんが革)士英先生とか、がですよ、(蓮風)先生のことを、「おぉ、ものすごいなんでも中医学の古典の事全部知ってはる」ってびっくりするんですから。うん。そりゃもう中国捜してもそんなになかなかいないと思いますよ。

 蓮風 まぁでもそこまで言ってもらったらうれしいね。ただ我々は、先祖 代々、鍼医者でね。

 杉本 14代でしたっけ。

 蓮風 うん、そうなんです。血統書付きで。ハハハ。で実際もうたくさんの話しを聞いとるんですよ。先々代は首吊って意識なくなった人を抱いて綱を切って、寝かせて、それである場所へ鍼して意識を戻すんです。そういうもう今から言うととんでもない奇跡みたいなことをたくさん起こした事実を僕は子供の頃から聞いてる。だから(鍼灸は)効くんだと。じゃあどうしてそう効くんかと言うと、今言うように『黄帝内経』に書かれてある理論をきちっと学べばできるという。そしてあの『素問』の中の陰陽応象大論の中に、陰陽調えばなんでも治るんだという事が書いてあったんでね。あれが一番大きかったですね。うん。
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 杉本 まぁ、してみるとこの中国の古典の、古代の思想はもの凄いということですよね。『黄帝内経』が今だにバイブル。

 蓮風 いや、だからあれを通じてね、僕は古代の中国思想に触れていったんですよ。だんだんだんだん。まぁ老荘が中心ですけどもねぇ。あれは本当に大きなスケールの大きな考え方だなと思ってね。でそれを背景に『素問』『霊枢』ができてるもんやから、先生がおっしゃるように、人間の身体だけじゃなしに天地からね。

 杉本 全部ですよねぇ。いやでもあのーよくあの(蓮風)先生おっしゃるじゃないですか。こうなんか気圧が変わるから、うちの犬が発作起こす時も、気圧が変動するからきてるんやわ頭にって。やっぱりそれと同じことですよね。この全部の、この宇宙の中で人間の「個」っていう存在があるけども、宇宙の影響受けないでこの「個」はいられないですから。

 蓮風 いられないです。だから大自然の子供という発想はねぇ、正しいしもう臨床の中で実際活きてる。で内経気象という学問が実際それをまた証明して。先生喜んで下さい。日本生気象学会。生物における気象の学会で発表するんですよ。いやこの東洋医学でね、よその学会行って喋るっちゅうのはまずない。

 杉本 すごいですよねぇ。

 蓮風 だから(鍼灸師で気象予報士の資格も持つ)橋本浩一君のねぇ、あれ(内経気象学)すばらしいです。うん。
 
 杉本
 あのね、あの去年、なんでしたっけ、あのぅ、新型インフルエンザ。そうそう新型インフルエンザ。普通インフルエンザウイルスっていうのはその、冬にしか強くならないんで、インフルエンザは夏には流行しないっていう常識があったのに、去年の新型はそうじゃなかった。で、夏ごろになってでてきたら、テレビに出てくるお医者さん、なんか適当なこと言って、なんでインフルエンザなのに今ごろまだでるんですかっていう質問に、なんかこうその場しのぎのみたいな答えしてましたでしょ。無理やりなこと言って。今具体的にどういう表現してたか忘れたんですけどね。でもそれを(蓮風)先生達は、「今年のは夏までくるよ」っていう風に最初からもう気象の関係からわかってたとおっしゃた。それはまったく本当に宇宙の中で全体として捉えるということですね。

 蓮風 そうです。

 杉本 そういうのを科学って言わないでなんなんでしょうね。

 蓮風 そうそう。真にそれは私は声を大にして言っていただきたい。しかもねぇ、ちょっと一見怪しげやけど、五運六気というねぇ、大変な哲学があって、あれから割り出すとねぇ、今年の夏は大して暑くならんだろうと言ったけど、だいたい当たってますねぇ。

 杉本 あ、あのぅ、すいません先生。気象庁が今年の夏は超暑いって言ってて、なのに、今年はなんか途中で、えっ、あんまり暑くなんないって、みんなちょっと予想に反してて。

 蓮風 あのねぇ、それはねぇ、朝晩にねぇ、風を僕は肌で感じるんですよ、家で。完璧秋の気配。(編注:対談は2011年8月4日)

 杉本 私もそう思ってます。

 蓮風 あっ、わかる!?あーすごい。

 杉本 もうねぇ、1週間ぐらい前から、もっと前かな。なんか朝の、えっ、風違うよ、これ秋。っていう。

 蓮風 「秋きぬと目にはさやかに見えれども風の音にぞおどろかれぬる」あのね、萩の花がね、僕この間から散歩して歩いてるとボツボツ咲いてるんですよ。あれは完璧に秋の花なんですね。だから自然はそれをはっきり打ち出している。
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 杉本 このごろ本当に朝夕のね、温度の感じとか、上がり方、下がり方、風の感じは秋ですよね。

 蓮風 そうですねぇ。確かに気温は高いけど、全体としては空気は乾燥気味でねぇ。

 杉本 そうなんですよ。違うんですよ。
杉本雅子5
 蓮風 いつものムシムシとちょっと違う。

 杉本 本当にジメジメ、ムシムシはないですよねぇ。

 蓮風 だからねぇ、僕はねぇ肌で感じるもの、ものすごい大事ですし、弟子達にも教えるのにベッドが分かれてるでしょ。「この人、においわかるか?」って。「これは湿熱やで。」「これはあの、湿熱のない陽虚のかたちのにおいやで」って。わかるんですね。

 杉本 へぇ、においで?

 蓮風 だから肌で感じて、においで、耳で、目で、この五感を駆使して人間の身体を中心にして自然界の動きも全部わかってしまう。これが東洋医学だと思います。うん。

 杉本 だから本当に今東洋医学のすごさっていうのはあるんですけどね、ただ日本の中でどうやってこれから位置づけていけるのかなっていうのは、私としては個人的に気になりますよね。早く健康保険きくようになればいいのにとか、思いますから。これ、自分の治療費が安くなるからとかじゃないですよ先生。そんなセコイことじゃなくって、みんなが気軽に受けられるようになるから。

 蓮風 それはあります。

 杉本 だって知ってもらわないとダメなんだから、特に若い人なんかにね。もっと気楽に行けるようになれば、当然、土壌が拡がりますからね。

 蓮風 そうです、そうです。

 杉本 でみんながそれをできるようになれば、ほんとに人助け。まあ、中国の中でもだいぶ中国医学に関しては温度差がありましてね、地域によって。

 蓮風 地域でね。

 杉本 (中国の)北の方なんかに行くとあんまり中国医学なんて話も聞かないのに、南の方に行くと、それこそ北辰会と協定を結んでる広州辺りに行くと、もう中国医学っていうのが日常の中で当たり前のように根づいている。それはなぜかと言ったら、やっぱりその、南の方っていうのは疫病の多いとこだからですよね。

 蓮風 そうなんです!

 杉本 疫病の多い地域で漢方とか東洋医学が根づいているっていうことは、やっぱり必要とされてるっていうことなんですよね。

 蓮風 そうそうそう。

 杉本 で北の方は乾燥ばっかりですからね、そういうタイプの病があまりないので、そうするとちょっと縁が薄くなるのかもしれない。

 蓮風 そうそうそう。

 杉本 それはわからないではないですよね。

 蓮風 だからあのー、鄧鉄涛先生のおられる場所、鄧先生のおやりにになってるのは、南側の温暖の地域における、その漢方医学、中国医学なんだけど、嶺南医学、また独特の医学を作ってるんだとおっしゃってる。でその通りなんですね。なんかむしろ伝染病とかなんとかいうんやったらあの医学を使わないかんのです。

 杉本 そうですよ。〈続く〉
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