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初回公開日 2012.3.10
春日大社は平城京の昔から日本の信仰と文化を伝えてきました。今回から「古都奈良の文化財」として世界遺産にも登録されている、この神社で権宮司をつとめている岡本彰夫さんと、鍼灸師の藤本蓮風さんの対談をお届けします。岡本さんと鍼(はり)との不思議な出会いから始まり、「目に見えない世界」の話など、初回から深遠な世界が語られています。日本人は「魂」をどのように捉えてきたのか…。風土と身体と精神の関わりについて考える示唆深いお話が始まります。さぁ「玉手箱」からまた新しい「宝物」が出てきましたよ。(「産経関西」編集担当)
これを見ますと、魂というのは玉之緒でつながっているけれども、方々をうろうろ歩くわけです。これが遊離の運魂ですわ。ところがこれが外に出てたら身体が弱ってくると。それで身体の中府に、真ん中に鎮めるためのお祭りやと書いてあります。この中府というのは、日本語で言うと「なかご」なんです。この「なかご」はどこにあるのか、というと、おそらく丹田にあるんだろうと。丹田に鎮めるんだろうと言われているんですわ。日本にのこっている鎮魂法というのは、ひとつは天皇陛下の鎮魂をするために宮中に残っている鎮魂法があるんです。もうひとつは奈良県の石上(いそのかみ)神宮。石上神宮は物部氏の根拠地なんですが、物部氏が伝承した石上式の鎮魂法というのがのこっておりましてね。この鎮魂法というのは、石上神宮の秘伝なんですが、臍(へそ)から始まって臍に終わるんです。あぐらを組んで、手を回していくんです。こうして(おへその前で円を描きながら)右ふりとか左ふりとか、前ふり後ろふり中ふりとか、振るんですが、それが必ず臍から始まって臍に終わるんです。
蓮風 これは非常に重要なことですわ。
岡本 ものすごい大事なことでしょ、先生。
蓮風 あの、淡路島に、オノコロ島というのがありますね。
岡本 はい。
蓮風 あれがどうも人間の臍(へそ)に当たるみたいで。そういうことを書いた本にヒントを得まして、身体が非常に弱りきった人を治療する場合に、お臍の周辺に鍼灸をやるんです。これはもう本当に弱りきった人にはその術を使わないと戻らないんですわ。いまのお話を聞いていますと、玉之緒、中府に鎮むのはどこか、丹田か、とおっしゃった。この話は非常に素晴らしいですね。感動しますね。
岡本 ああ、そうですか。
蓮風 だから臍というのは、心―身体―魂をつなぐ部分ではないでしょうか。
岡本 まさにそうですね。
蓮風 弱りきった人は、ここ(臍)が冷たくなってきます、我々臨床家から見ると。他の部分は温かいのに、なぜか臍は冷えて、しかも盛り上がってきます。
岡本 だから臍は大事なんですね。〈続く〉