蓮風の玉手箱

このサイトは、2011年8月7日~2015年8月29日までの間、産経関西web上において連載された「蓮風の玉手箱」を復刻したものです。鍼灸師・藤本蓮風と、藤本漢祥院の患者さんでもある学識者や医師との対談の中で、東洋医学、健康、体や心にまつわる様々な話題や問題提起が繰り広げられています。カテゴリー欄をクリックすると1から順に読むことができます。 (※現在すべての対談を公開しておりませんが随時不定期にて更新させていただます・製作担当)

カテゴリ: 和クリニック院長の村井和さんとの対話


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村井和さん(写真右)と藤本蓮風さん(同左)=奈良市の「藤本漢祥院」

 「鍼(はり)」の力を探る「蓮風の玉手箱」をお届けします。村井和・和クリニック院長と、鍼灸師の藤本蓮風さんとの対談の6回目です。これまでのお話から村井さんは医師として実際の治療に鍼灸を取り入れているだけに「東洋」と「西洋」の医学の違いが経験的にわかっていることが伝わってきます。今回、話題にのぼっているのが「気」です。「形」あるもののメカニズムの関係性から考える西洋医学と、眼に見えない「気」を重視する東洋医学…。後者を「非科学的」だとする立場が本当は科学的ではないことも少しずつ理解されているようで、おふたりの経験をうかがうと、宇宙としての人体の不思議さが浮き彫りになって医療の新しい可能性が見えてくるようです。(「産経関西」編集担当)

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 村井 自分が鍼を受けたり人に鍼で治療したりしてますと、鍼で身体に変化が起こるっていうことが分かるんですけれども、その効き目や、どうやって効いているのかということを患者さんやドクターに、どう説明したらいいんだろうなって思うんです。

 蓮風 そのことについては、私も素人向けの本をいくつか書いたんです。結局(西洋医学とは)根本が違うということを徹底的に復習するしかない。西洋医学は「形」を追求して、どこの“メカ”が痛んでいるのかということを基本に考えて医学ができていると思うんです。最近では、メカだけでは説明できない部分があることを西洋医学もぼつぼつ知りだしてきたんですね。

 東洋医学の場合は、あくまで形でなく「気」というものが身体を支配している。それは身体だけじゃなしに自然界も「気」によって支配される。そういう自然界とわれわれの内部環境というか、生体とがまたお互いに呼応してるんですね。今(対談は4月17日)の時季、本来は東南の風が吹いて春としては非常に湿気が多い時期なんだけれども、ここ最近は空気が乾いている。異常に乾燥してましたね。で、どうも患者さんの身体が動きにくいという事を知った訳ですけれども、その時、気にしとったら大きい地震(4月13日に発生した淡路島付近を震源地とするM6.3の地震)が起こりました。もちろん地震そのものの予知をしていたというわけではないんですが…。

 人間の身体で「気」が大きく歪む場合には自然界も歪んでいる。これは内部環境と外部環境が呼応してるんだという考え、これが東洋医学の根本的な考え方なんです。だから今「北辰会」で『内経気象学』というのを作って勉強をやってもらってる訳ですけれども、病気というものはそもそもこの自然界の陰陽の「気」が崩れた時に起こりやすい。その自然の陰陽の「気」が崩れるのには幾つかの理由があるね。冬は寒い北風が吹く。夏には南からの暖かい風が吹く。これが自然の法則や。でも最近はかなり狂っていて、自然界の季節にあらざる風が吹いている訳です。

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 蓮風 それから食べ物が相当乱れてきてますね。もう色んな添加物が多すぎる。特に今の若い人はね、ファーストフード、と言うんか、そういうものを美味しいと言って、たくさん食べてるのは、やはり問題があると思う。それから精神面でも非常にストレスが多い社会になってますね。こういったものをやはり意識しながら患者さんに鍼をする。結局まぁ「気」を戻す。で、「気」を戻すということは自然界にも実は働き掛けている訳です。

 この間、ある弟子が「先生、患者さんの鼻詰まりを治したら私の鼻詰まりも治った」と言ってました。鍼灸師自身の内部環境と外部環境にまで働く。鍼というのはそんな凄い世界なんですよね。そうなってくると単なる医療じゃなしにもっと根源的な人間が生きてることの意味、人間がどうしないといけないのかという様なことを説いている様に思うんですよ。いかがですか?

 村井 そうですね。私も凄く体調が悪い、まぁ頭が痛いとか腰が痛いとかいう時に、朝は頭痛で嘔吐して御飯も食べられない状態なのに、病院へ行って患者さんが前に座ったとたん身体がスーっと楽になって気持良くなるんですよ。で、もうあらゆる苦痛が取れて…。凄い腰痛があって動くのが辛い時でも、患者さんを治療している鍼灸の間だけは全然痛みがなくて、「あっ、あと一人やな」とか思った瞬間にガーっと痛くなり出して(笑)。意識というのもあるんでしょうけど、人を治療したりしてるとこっちも楽になって来るんです。そういうことも影響してるんですかね。

 蓮風 まぁそういうこともね、やっぱりその人の人格とかそういうのも色々左右するんでね、なかなか難しい問題で。それを行き過ぎるとまたそれこそね、怪しげな宗教と思われますんで難しいところですけれども。<続く>

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藤本蓮風さん=奈良市学園北「藤本漢祥院」

 「鍼(はり)」の力を探る「蓮風の玉手箱」は、和クリニック(和歌山市吹屋町)の村井和院長と、鍼灸師の藤本蓮風さんとの対談の7回目をお届けします。前回は東洋医学のバックボーンのひとつである「気」についてのお話となりました。今回は「鍼の本質」に話題が及びます。「玉手箱」のなかでも一般の読者にとっては鍼を考える大きなポイントになりそうです。(「産経関西」編集担当)

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 村井 先生ご自身はどうやったら東洋医学での治療を受けようという方が増えると思われますか?

 蓮風 う~ん、それ、それなんですよね。やっぱり西洋医学では難しい患者さんを鍼灸師がどんどん治していかないといけないと思います。ところが、そんな鍼灸師は少ない。ちょっとした慰安的な、電気治療と同じ様なことをやってるだけでは独自性がないから患者さんも全然振り向きもしない。

 村井 そうですね。

 蓮風 以前も言いましたけど、どこからか多額の寄付を受けて、そんなことができる病院ができれば、難病治療の機会も増えて成果も見てもらえる。鍼灸師が質的な向上をしないで、軽い肩こりや腰痛の治療みたいなことばっかりやっとるだけではアピール効果は少ないと思います。

 村井 そうですね。

 蓮風 この間もALS(筋萎縮性側索硬化症)という難病の患者が少なくとも、人工呼吸器を付けんでもよくなった。これはやっぱり凄いことやと思うんですよ。西洋医学ではそれはできなかったんですから…。そういう病気をどんどん治すしかない。そのためには、鍼灸師のレベルを上げなければならない。だから「北辰会」は「こんな症状が治るよ」「一緒に勉強しませんか」って声を枯らしているわけ。また治った実例を社会やドクターにもっともっとアピールせないかんわ。その1つが実は「蓮風の玉手箱」であり私のブログ(「鍼狂人の独り言」)でもあるんです。

 それから「柔整鍼灸師」というか、鍼灸師と柔整師(柔道整復師)の免許を持っている場合、柔整師の「施術」は保険診療の対象になりやすい。自分ところの柔整を流行らせるためにサービスとして鍼灸もやってる。これでは絶対鍼灸のレベルは上がらないし、患者さんも「あぁ鍼なんて、その程度のもんだ」と思ってしまう。だけど、治療のときに保険がきくので、そちらのほうがレベルが高いと思ってしまうかもしれないんですね。

 村井 はい。
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 蓮風 でも、鍼で治ってくると、やっぱりこれは(世間の印象より本当の力は)“上”だなという風に気づく訳です。やっぱり実践によって人々は鍼への評価を高めるんじゃないですかね。

 村井 でも今の時点で鍼灸が、西洋医学の代わりを全部しようとしても、ちゃんとできるレベルの人が足りませんよね。

 蓮風 そうそう、だから教育から始めないかんわけですね。大変なことですが。まぁ「北辰会」は知らん間に会員数が約300人になりました。それだけ増えたということは少しは社会に貢献してる証明ですよね。会員にもドクターが増えてきて「ドクターコース」もあります。地道やけども、そういうことしかないんじゃないかなぁ。本当に(スピード感がなくて)歯がゆいですけどもね。

 それから明治以来の鍼灸師を輩出する制度にも問題があります。病気治しよりも害のない鍼をしなさい、という教育が基本なんです。だからやってるのは東洋医学ではなく、ほとんど「消毒をきちっとしなさい」とか「こういうことやると危険だからやるな」という様なことが基本に置かれた教育が続いてる訳です。

 だから鍼の本当の姿を知らないのが多すぎる。ほとんどが知ってないと思うがね。だからこの間もちょっとしたデモンストレーションで僕は、鍼も使わんと「気」を動かして見せたんです。実は「鍼の本質はこうなんだよ」ということが言いたかったから披露しました。「鍼は物理刺激やから効くんだ」という様なこと言ってるんではもぅとてもとても鍼の素晴らしいところを展開できませんね。<続く>

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村井和さん=和歌山市吹屋町「和クリニック」

 「鍼(はり)」の力を探る「蓮風の玉手箱」をお届けします。村井和・和クリニック院長と、鍼灸師の藤本蓮風さんとの対談の8回目。おふたりのお話も終盤に近づいてきました。前回、鍼は単なる物理的刺激として効いているのではない、という「鍼の本質」に話題が及びました。蓮風さんは鍼を使わないでも「気」を動かすことができると話されましたが、村井さんはさらにもっと奥、突き詰めた部分に興味を持たれているようです。今回は、そんな質問から対談が始まります。(「産経関西」編集担当)

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 村井 (鍼による治療から)無駄なもんどんどん省いていったら、鍼がどうして効いているのか、どうやって治ってるのかっていう、本質的なとこに迫れるかもと思うんです。先生は(鍼)一本だけで治すとか、少数鍼で治すということをされてるんですけども、鍼が手元になければ、究極的には鍼というものが存在しなければ、どうなんだろうと、思うことがあります。

 蓮風 非常に難しい問題ですね。爪をもんだり、爪楊枝でツボを刺激したりという療法がありますね。私は非常に危険な発想やと思うんです。プロがプロにそういうこと教えるのは別に構わんと思うけど、下手に素人が真似すると却って悪化しますよ。だから素人にあんまりそういうことを教えるのは良くないし、そういう本が沢山流布されていること自体が問題だと思う。「気」を動かすというようなことは、やっぱりプロでも中々難しい訳で、それを素人にここを押したり突いたりしたら良くなるよ、というようなことを言うのは、やっぱり非常に危険ですね。よく患者さんでね、「先生の鍼を受けてる時はええけど、来(こ)ん時はどこ突いたらエエ?」というようなこと聞いてくるんだけど、僕はいらわん方が良いと思う。

 村井 私が聞きたかったのは鍼の代わりに何かすることがないかということではないんですけども…。鍼がどういうメカニズムで効いてるのか、身体にどのように作用して鍼が効いてるのかなって不思議に思うんです。

 蓮風 これは僕の体験談なんやけど、親父がまだ若い頃で一緒に暮らしていたときのことです。深夜になってね、親父が起きて来て、僕の部屋へ来て「首と肩が詰まって息苦しい」と、言うた時に「中渚」(手の甲の小指と薬指の間を少し下がった部分)」と「臨泣」(足の甲の小指と薬指の間を少し下がった部分)を爪で押えてポンポンと叩いたら、一気に気が下りて治った。こういうことはあるんですね。

 だから前にも言ったと思うけど、刺激の部分があるんです、「気を動かす」ということは全く無刺激でやる部分が中心やと思うんやけど、幾分その刺激に反応する部分がある。その最たるものが、お灸ですわ。お灸はもう熱いから嫌でも反応しますね。あれは刺激と言えば刺激です。ただそれをやっぱり素人に言うのには危険が相当伴うなと思います。下手に押さえると却って危ないです。

 村井 以前、北辰会のシンポジウムで、先生がドクターに「生命」をどう思いますか、と聞かれました。「魂」だったかな…。東洋医学的には「魂」はどう定義されているのでしょうか。

 蓮風 「北辰会」では人間は心と身体と魂という三方面から成り立っていて、それを統べるものが「気」というものだという風に考えているわけですけども。素人でもちょっと今日、元気がないなとか、元気だねという気配で感じる、非常に感覚的に生命を感じている部分がありますね。そういったことが尖鋭化されてくると東洋医学の専門的な生命の見方に繋がっていくという風に思います。

 (中国最古の医書といわれる)『霊枢』の「本神篇」に、「両精相搏謂之神」とある。つまり要するに“精”という字は米偏に青と書く。お米を研いで、玄米を研いで精米にする事を“精”と言う。それから転じてあらゆるものをエキスという。「両精相搏つ」というのはお父さんのエキスとお母さんのエキスが相まって神を生ずる。そこから生命の根源の根源である神というものを生ずるということを言っておる。これも一つの東洋医学の生命観だと思いますね。

 村井 生まれる時はそうなんですね。死んでいく時は、生命はどんなふうになっていってるって考えるんですか?

 蓮風 それは『荘子』という本の中で、「気の集散」ということで説明されています。「気」が集まって初めて生命が生ずる。だから「気」が集まるというのは具体的にはお父さんのエキス、お母さんのエキスが集まって生命が生まれるということ。一方(死は)「気」が本来の姿である自然界の「気」に戻っていく、これを「散る」と言っている。『荘子』では「気の集散」によって生命を説明しております。
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 村井 ありがとうございます。あと「ツボって何なんですか?」って聞かれたら何て答えたらいいんでしょうか?

 蓮風 「気」の流通するルートが人間の身体にはあります。これを「経絡」と言いますけども、流通するルートの中でのポイントですね。それがツボです。だからそこに「気」が溢(あふ)れておれば、いらない物を取り除く「瀉法」をやって鍼で散らすし、足らなければ「気」を身体の中から呼んでそこに集めてくる、これを「補法」という。鍼灸もそういう意味では非常に明解なメカニズムで効いているわけです。

 ただこれを誤ると効かないし、かえって悪化します。事実、私は北辰会の会員を被験者にして症状などの悪化実験をやりましたね 。素人が下手にやるといかんというのをしきりに言うのはそういうことです。効くという事は悪化させることもできるということ。ちょうど薬が効くという事は転じれば毒になるというのと同じような意味を持つと思っていますね。

悪化実験とは「天枢」という経穴を使っての実験。詳細は藤本蓮風ブログ「鍼狂人の独り言」第487回2011年11月8日、「公開臨床」)を御覧ください。(北辰会)

 村井 あと一つなんですけども。先生はいろいろな治療法を新しい難病の方が来られた時とかに、どんどん新しい治療法をひらめいて治療されていくんですけど、どのように心掛けてふだん勉強していったらいいんでしょうか?

 蓮風 やっぱり毎日、自己否定というか、今までこれで良かったけれども、果たしてこれが最高のやり方かな?と(自問自答する)。ついこの間ね、これはきっかけが面白かった。子供でね、もう鍼を近づけただけで嫌がるんですよ。刺してもいないのにね。あぁこれは刺せないなと思う。手で鍼を隠してツボにかざしただけ。それがどんどん効きだしてね、発育不良の子供がわずかの間に物凄く良くなってきた。やっぱり「気」というものが動くからですね。刺激だけであれば絶対そういうことで効くわけはないのだけども、そういう奥深いものが段々ね、工夫すると出てくる、それが面白いんですね、楽しいんですね。

 村井 今のやり方でいいのかなって事を常に反省しながらやっていくんでしょうか?

 蓮風 そうですね。病気が治る方法があっても、もっと早く安全に確実に効く方法はないかという目的意識を常に持っとかんと、ダレてしまいますね。僕は、そういうことはものすごく嫌なんですわ。昨日より今日、今日より明日が絶対それなりに展開せんと生きている意味がないように思ってね。だから、そういう中から色々なビックリするような治療法を編み出すことも沢山あります。だからそれは心掛けの問題だと思う。実際、僕ほど色々な患者さんを診ていると、平凡な治療法じゃなかなか治らないようなケースに出会う。だから次の治療っていうものを考え出していくんだね。〈続く〉

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診察中の村井和医師。患者の舌の写真を撮影するカメラは必需品
=和歌山市吹屋町「和クリニック」

 「鍼(はり)」の力を探る「蓮風の玉手箱」の村井和・和クリニック院長と、鍼灸師の藤本蓮風さんとの対談も9回目となりました。今回はお話も最後に近づいたところで、同席していた蓮風さんの内弟子さんたちから出た質問に対する村井さんの回答から始まります。鍼灸の優しくなでるような触診方法「フェザータッチ」について、練習方法やフェザータッチをできるようになって病院での外来の触診などが変わったか、どうか…という修行中のお弟子さんならではの質問でした。(「産経関西」編集担当)

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  村井 練習法は特にないんです。北辰会(の研修)に行った最初のころ、「触り方が違う」とずいぶん言われてタオルの上のフワフワとしたところだけ触るとか、その場では練習するんです。でも帰ったら忘れてて全然練習しなかったんです(笑)。自分の病院の中で反対されながら(鍼灸を併用した)治療をしていたじゃないですか。目の前に重症な患者さんがいて、全部自分の責任だし、間違ったことをしたら悪化もする。悪化させたこともあって、もの凄く怖いんです、やっぱり命に関わるので。ご指導頂くには、先生に正確に情報を伝えないといけないし、そして早く言わないといけない…。

 患者さんはどんどん毎日朝と夕でも凄い変化していきますからね。命に関わるので必死なんです。その必死が良かったのかなって思います。脈とかも分からないんだけど、先生に伝えないといけないからと思って、とにかくもう必死なんですよ。それが良かったとしか思えないです。

 病院でもお腹を診察することがよくあるんですけども、西洋医学的な見方ってけっこう肝臓とかもグリっと触ったりするんですけど、そんなことをしなくてもサラって触ったら肝臓がどこまであるとか分かるようになったんで。検診で中国人の女の子が来てお腹を診察していったら「凄く気持ちのいい触り方」って喜んでくれた事がありますね。ただの検診だけれども、触り方がやっぱり違うからって言って喜んでくれていましたね。

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 内弟子 (『鍼灸ジャーナル』に連載していた)「難病シリーズ」の中でも特に先生の記憶に残っている患者さんがいたらその話を聞かせてください。

 村井 2つか、3つくらいあるかな。ひとつは喘息(ぜんそく)の患者さんです。酸素吸入をしてて、かなりの量のステロイドを点滴してました。それでも何日も治まらないっていう状態でした。精神的な事が原因で起こっているんです。それで先生に教えていただいた「霊台」だったと思うんですけど、「霊台」に鍼をしたら15分くらいで完全に治まって酸素(吸入)も要らなくなったんです。ゼーゼーしていたのも治まって、すぐ退院できる状態になったんですよ。やっぱり鍼はすごく効くんだなって思いました。

 あとは、出血とかは、すぐ止まるっていうのはよく体験しました。うちの娘も、しょっちゅう鼻血を出していましたが、それも止まりました。肝硬変で出血傾向になった方の鼻血も耳鼻科で止まらなくて、もう本当にヘモグロビンも輸血しないといけない危険な状態寸前まで下がってしまうくらいだったんです。でもやっぱり鍼をしたら止まるんですよ。その時は「百会」の右とか左とかに鍼をして止血に成功していました。その方はちょっと黄疸もあったんで「肝胆湿熱」という病理も持っていたので「脾兪」の辺りにも鍼をいつもしていたんです。でも、そこ(脾兪)に打ったらまた鼻血が出だして。そしてもう一回「百会」の方にやったらまた止まって、「余計な治療をしたらいけないんだなぁ」っていう教訓を得ました。

 蓮風 あれは、先生が(北辰会に入会して)病院(の勤務)に復帰した初期のころやったかな。ある患者が喀血が止まらんようになって、自分ところの病院で処置できないから、別の病院へ救急車を呼んで、先生も搬送して付いて行きはったんや。で、途中で(鍼で刺して血を出す)「刺絡」をやりはったんですね。

 村井 そうですね、その状況が凄いので、救急車の中でやったということになっちゃっているんですけど、本当は救急車に乗る前なんです。喀血がひどくて、人工呼吸器を片肺だけ繋いで(別の病院に)連れて行くか、どうするか、という段階だったんですね。舌の写真を撮ろうと思って見たらあまりにも血まみれで、ちょっと(撮影は)やめとこうみたいな感じ。朝から出血していて、夜になるに従ってどんどん出てくる。もう本人も恐くなって…。私も病院から「主治医が対応して下さい」と呼ばれまして、行ったらすぐ鍼をしようと決めてたんですよ。で、刺絡して、背中の(内部の熱をさます)清熱もやったんです。それですぐに喀血が止まったんですね。

 蓮風 で、その病院に行くまでに止まってきて?

 村井 その場ですぐ止まってきて、呼吸も急に楽になって、安全に連れて行けたんですよ。で、向こうでもそれ以降全く出血がなくなって、手術の必要もなくなったんです。

 蓮風 そういう経験は、鍼灸師で気づかん人がようけおるでしょ。で、鍼はこんだけ効くんやっていうことをね、先生は西洋医学をやりながらそういうことを証明なさった。

 村井 あと初期の頃に、先生にお聞きする前にやってみようと思って、悪化させたことがありました。その時「十井穴」の「刺絡」にハマっていたんですよ。これ色々治るんやって思って。ハマってたんで、肺炎の患者さん入院されて、最初古代鍼で試しにやってみたら、それで熱が下がったんですよ。それで、もっと効くかもと思って、次に刺絡したら、しんどいと言い出して、酸素の状態もすごく悪くなってきて、熱も下がらなくなって。舌の写真もずっと毎日撮っていたんで、それを蓮風先生に見てもらって相談したら、「これは(血液が不足して循環も悪くなる)『血虚』が起こっている」っていうことで、三陰交に治療しました。それから、その方は(東洋医学への)こだわりが強い方で、点滴を拒否されたんです。鍼をすすめたら鍼の方が信頼できると仰るので鍼だけで治療して治ったんですね。(続く)

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対談する村井和さん(写真右)と藤本蓮風さん(同左)=奈良市「藤本漢祥院」

 「鍼(はり)」の力を探る「蓮風の玉手箱」は今回が藤本蓮風さんと村井和・和クリニック院長の対談の最終回となります。東洋医学というと、論理を超えた神秘的な印象を持たれている方も少なくなくて、それが不信感につながったり、反対に妄信的な信頼感を抱いたりするケースもあるようです。しかし、村井院長のお話をうかがうと、まず「鍼が効いた」という実体験に基づいた東西両医学の長所・短所が浮き彫りになって医療について考える新しい視点が与えられた気がします。対談全体を振り返ってみると、やはり医療に携わる人々は東西の「垣根」に関係なく患者を思いやる気持ちが患者の癒やしにつながり、患者の側も謙虚に自分の病に向き合う態度が必要なのだと思いました。(「産経関西」編集担当)

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 内弟子 治療が終わったら(ふだんの生活上の注意などの)養生指導をされると思うんです。西洋医学的な病院でも、通っているとか、投薬を受けている場合に、どうしても患者さんは西洋医学的な見解で説明を受けていると思うんです。で、こっち側としては、東洋医学的な説明で、どこがどう悪いというような話をすると思うんです。僕らは東洋医学的な話をすることはできても、西洋医学的な部分ではドクターと比べてわからないことが多いんです。でも村井先生はどちらもわかると思います。そういった説明をする時に、先生はどういう風にされますか? 患者さんとしては東洋医学的な説明は分かりづらいんじゃないですか。

 村井 私も、鍼がどうして効くとか、そういう話になると難しいんですけど、東洋医学って自然に則しているところがあるので、東洋医学的な養生法の方が、納得してくれる人って意外と多いように思いますね。東洋医学の方があまりコロコロ変わらないので、私も安心して説明ができるというのがありますね。西洋医学的なことは、また変わるかもしれないなって思うし、自分で納得できない説明はしたくないので、一応、西洋医学ではこうなってて、東洋医学ではこう言うんですよという感じで、両方説明したりするんですけど。

 内弟子 東洋医学とか漢方なら何でも身体に良いって思いこんでる人が多くて、漢方薬はなんでもマイルドに効くという風に考える方とか結構多いんです。例えばカフェインの取り過ぎはだめですよという話をした時に、じゃあカフェインの入っていないものだったら何でもいいと思いこむ。生姜の入っている紅茶だろうが、牛蒡茶だろうが何でもいいとか、そういうことを聞いてくるんです。

 村井 ご苦労なさっているんですね(笑)。

 内弟子 結構大変なんですよ(笑)。

 蓮風 それはね、やっぱしキチッとした東洋医学の食養の本がないからです。何でもかんでも生姜がいい、身体を温めたら何でもいいっていう。そんなことないわけで、陰陽から言うと全くおかしな話です。そういう本もやがては書かないかん。陰陽の食養の表みたいなものを作って素人を啓蒙しないかんし、専門家にも使ってもらわないかんね。東洋医学は、2500年前の『素問』『霊枢』で完成はしているんだけど、現代の世の中に生きる『素問』『霊枢』に従う食養みたいなものが、出てこなくちゃいけない。それをやっぱり、みんなで作っていかなくちゃいけないね。

 2500年前の人達と我々は食べ物が違うんだから、その中で陰陽を使おうと思えば、具体性に富んだね、そういう本が必要だなと思いますね、つくづく。それから、先ほども重い肝硬変の患者さんを診とったら、腹水が溜っているんですね。そしたら利尿剤を使っていて「使い続けていいか?」って聞くんです。私は「本当はいかん」って…。元々、癌とか肝硬変で水が溜るのは、熱を冷まさんがために、水が溜る。ちょうど膝を打ったら水が溜りますよね。

 で、西洋医学だったら水を抜いて、そこへステロイドを入れるわけやけど、水を抜いちゃいかんねん、本当は。何でかというと冷やそうとしているから。水抜いたら歩きやすくなって、腫れが取れたら楽にはなる。だけど、水が溜ること自体は、実際は生体が(自身を)守ろうとしているので、水を抜いたら悪いわけです。従って、肝硬変の腹水もですね、利尿剤で、あんまり出さん方がええと…。内熱を助長するからね。というような理論もやっぱり出てくるわけや。だから西洋医学を知った人が東洋医学を応用する場合は、やっぱりそこらあたりの陰陽的な研究も必要だなという気もするんです。ぜひともこれ、ドクターコースの先生方にそういう意見を出し合ってもらって、この薬はこういう風に効くんだよっていう話をして貰えればね、我々も陰陽的に説明できるなと、こう思っております。
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 「産経関西」編集担当 村井先生が今回の対談で、ご自分の体調が悪くても、患者さんに鍼灸治療をすると、ちょっと自分が楽になると仰ってたじゃないですか。人間と人間の関係の中で相手のことを思えば、お互いに癒やされるような作用ってあるのかも、と思いました。互いに痛み分けをできるようなものっていうのは、東洋医学の根本思想のところにあるんですか? そうなら、お互いに憎みあうというのは個人でも国際関係でも不毛なこととも言えますね。

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 蓮風 一種の「気」が働いていると思います。で、それも言葉だけでやったらだめやけども、心を込めてやると、「気」というのはそれこそ、いたわりにいきます。そうすると本当に受けた方は、それを感じることができる。だから、西洋医学では(対話による)ムントテラピーというのがあります、「口療治」っていう。だけど、もっと深い意味で東洋医学は言っているわけです。「気」を動かすから。単に口で安心さすってことじゃなしに、そういうもんが行き交いする。それは、個体内部にもあるし、外界にもあるし、それぞれが持っている。

 だから、もともと「気一元」ですから、それが交流するのは当たり前なんであって、だから問診で長く色々と聴くこと自体が、実は気の交流に繋がっているんですね。だから僕は電車乗ったらね、常に前・横・後の人の気を感じます。「あっ、この人のそばにおったらいかんな」と思ったら車両変えますよ。必ず良くないことが起りそうな予感がするから。だから波長が合う、合わないっていうでしょ。あれは当たっているんですよ。だから同じ人間で波長が合わないのは、そばに行っちゃいけないんですね。思いやる心は誠に通じると思いますよ。だから、鍼灸師にせよドクターにせよ、医療現場に関わる者はそういう思いやる心を持っていないと絶対ダメですよ。

 村井 そうですね。

 蓮風 きょうは良い話ができたのではないかと思います。どうもありがとうございました。

 村井 ありがとうございました。<終>


 次回からは、医師の竹本喜典さん(奈良・山添村国民健康保険東山診療所長)をお迎えした対談をお届けします。
 

 

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