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村井和さん(写真右)と藤本蓮風さん(同左)=奈良市の「藤本漢祥院」
「鍼(はり)」の力を探る「蓮風の玉手箱」をお届けします。村井和・和クリニック院長と、鍼灸師の藤本蓮風さんとの対談の6回目です。これまでのお話から村井さんは医師として実際の治療に鍼灸を取り入れているだけに「東洋」と「西洋」の医学の違いが経験的にわかっていることが伝わってきます。今回、話題にのぼっているのが「気」です。「形」あるもののメカニズムの関係性から考える西洋医学と、眼に見えない「気」を重視する東洋医学…。後者を「非科学的」だとする立場が本当は科学的ではないことも少しずつ理解されているようで、おふたりの経験をうかがうと、宇宙としての人体の不思議さが浮き彫りになって医療の新しい可能性が見えてくるようです。(「産経関西」編集担当)
村井 自分が鍼を受けたり人に鍼で治療したりしてますと、鍼で身体に変化が起こるっていうことが分かるんですけれども、その効き目や、どうやって効いているのかということを患者さんやドクターに、どう説明したらいいんだろうなって思うんです。
蓮風 そのことについては、私も素人向けの本をいくつか書いたんです。結局(西洋医学とは)根本が違うということを徹底的に復習するしかない。西洋医学は「形」を追求して、どこの“メカ”が痛んでいるのかということを基本に考えて医学ができていると思うんです。最近では、メカだけでは説明できない部分があることを西洋医学もぼつぼつ知りだしてきたんですね。
東洋医学の場合は、あくまで形でなく「気」というものが身体を支配している。それは身体だけじゃなしに自然界も「気」によって支配される。そういう自然界とわれわれの内部環境というか、生体とがまたお互いに呼応してるんですね。今(対談は4月17日)の時季、本来は東南の風が吹いて春としては非常に湿気が多い時期なんだけれども、ここ最近は空気が乾いている。異常に乾燥してましたね。で、どうも患者さんの身体が動きにくいという事を知った訳ですけれども、その時、気にしとったら大きい地震(4月13日に発生した淡路島付近を震源地とするM6.3の地震)が起こりました。もちろん地震そのものの予知をしていたというわけではないんですが…。
人間の身体で「気」が大きく歪む場合には自然界も歪んでいる。これは内部環境と外部環境が呼応してるんだという考え、これが東洋医学の根本的な考え方なんです。だから今「北辰会」で『内経気象学』というのを作って勉強をやってもらってる訳ですけれども、病気というものはそもそもこの自然界の陰陽の「気」が崩れた時に起こりやすい。その自然の陰陽の「気」が崩れるのには幾つかの理由があるね。冬は寒い北風が吹く。夏には南からの暖かい風が吹く。これが自然の法則や。でも最近はかなり狂っていて、自然界の季節にあらざる風が吹いている訳です。
村井 はい。
蓮風 それから食べ物が相当乱れてきてますね。もう色んな添加物が多すぎる。特に今の若い人はね、ファーストフード、と言うんか、そういうものを美味しいと言って、たくさん食べてるのは、やはり問題があると思う。それから精神面でも非常にストレスが多い社会になってますね。こういったものをやはり意識しながら患者さんに鍼をする。結局まぁ「気」を戻す。で、「気」を戻すということは自然界にも実は働き掛けている訳です。
この間、ある弟子が「先生、患者さんの鼻詰まりを治したら私の鼻詰まりも治った」と言ってました。鍼灸師自身の内部環境と外部環境にまで働く。鍼というのはそんな凄い世界なんですよね。そうなってくると単なる医療じゃなしにもっと根源的な人間が生きてることの意味、人間がどうしないといけないのかという様なことを説いている様に思うんですよ。いかがですか?
村井 そうですね。私も凄く体調が悪い、まぁ頭が痛いとか腰が痛いとかいう時に、朝は頭痛で嘔吐して御飯も食べられない状態なのに、病院へ行って患者さんが前に座ったとたん身体がスーっと楽になって気持良くなるんですよ。で、もうあらゆる苦痛が取れて…。凄い腰痛があって動くのが辛い時でも、患者さんを治療している鍼灸の間だけは全然痛みがなくて、「あっ、あと一人やな」とか思った瞬間にガーっと痛くなり出して(笑)。意識というのもあるんでしょうけど、人を治療したりしてるとこっちも楽になって来るんです。そういうことも影響してるんですかね。
蓮風 まぁそういうこともね、やっぱりその人の人格とかそういうのも色々左右するんでね、なかなか難しい問題で。それを行き過ぎるとまたそれこそね、怪しげな宗教と思われますんで難しいところですけれども。<続く>