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対談中の竹本喜典さんと藤本蓮風さん=奈良市「藤本漢祥院」
鍼(はり)の知恵を探る「蓮風の玉手箱」は医師で山添村国保東山診療所長の竹本喜典医師と鍼灸師の藤本蓮風さんとの対談の6回目です。今回は竹本さんが実際の現場で、鍼灸を取り入れる難しさについて語ってくれています。やはり患者さんが受け入れてくれるきっかけが大切なようです。そして一般の人々も何でもかんでも医師に頼るのではなく自分の健康観をもって適切な治療や検査を受けるための心がけも必要なようです。医療に向き合う姿勢が個々の人生観の反映でもあるようですよ。(「産経関西」編集担当)
竹本 癌(がん)でターミナルケア(終末期医療)を受けているような方に対して、多少の心の安定やとか、痛みやとか、食べられないとか、そういうことに関して何とか関わりたいな、という意味では、漢方も鍼もがんばってます。でも、なかなか打ち勝つというとこまではいかないですね。
蓮風 はぁ、今日はおもしろい話になりそうやね。そうですか。そうすると、今のとことりあえず西洋医学を中心に漢方・鍼灸を適宜取り入れながらされてると。
竹本 そうですね。治せなかった時、怒られますんで。
蓮風 ははは(笑)。
竹本 最終的には患者さんにデメリットがないようにと思っています。
蓮風 まぁ、これから先のことだろうけど、先生がビジョンとして持っておられる理想的な医療というのはどういう世界なんでしょうね?
竹本 実際はバンバン治したいんですよね。それは一番の目標だと思うんですけど、現実にはなかなか難しい部分もたくさんあるかなと思いますし、何か意味があって病気になる人っていうのが実際にはあるのかなと思います。東洋医学的な視点も含めてですけども、この人のこうなっている意味みたいなものをフィードバックして、その人の生き方に上手く反映できるような関わり方というか、治療をしていきたいと思うんです。その中で東洋医学的な弁証で治療をする、効果を感じてもらう。そこから動機づけとなって、生き方とか考え方とか患者さんに良い変化が起きたらいいなと思っています。(漢方・鍼灸を理解してもらう)良いきっかけとして関わっていきたいです。
蓮風 そうですか。
竹本 僕も東洋医学とか中国哲学みたいなものとか、少しづつ勉強する中で何かこう自由に考えてもいいんだなというのがわかってきて楽に生きれるようになったという風に思います。
蓮風 そうですか。楽になった。
竹本 こうでないとあかんのんちゃうのかとか、こういう風にしていかなあかんゆうようなことたくさんある訳ですけど、実はそうでもないのかなと。で、患者さんに対しても「こうしてください」とか「塩分あかんで」とか、「これこんなもんばっかり食べたらあかんで」とかいうようなことをこっちも怒って言うてたと思うんです。少しは年を取ったのかもしれませんが、今は、患者さんのそういう生き方もあるなとか、いろんなパターンを許容出来るようになりました。それでも上手いこと患者さんに変って欲しいんですがね。
蓮風 なるほど、なるほど。
竹本 患者さんにももっとゆとりのある考えとか、楽に生きてくれたらいいのにという人、沢山いらっしゃいますよね。もう90に近いのに「1年前にMRI撮ったんやけど脳ドックに行った方がええかな。半身不随になったら怖いし」とか…。薬もいっぱい飲んではるんやけど、また新たに病院へ行くとか。それは、それで(余計に)しんどいんと違うかなと思うんです。「そんなん大丈夫やで。これ飲んどいたら」と言っても、その人の不安はなかなかとれないんですよね。その人の根本的な物の考え方とか、そんなんが90になって変わるのは難しいんでしょうね。図々しいかもしれないんですけれども、変わるきっかけになるようなお手伝いがしたいと思います。それが僕の中の理想です。
蓮風 先生は、ドクターになって僻地での医療を中心にやってこられたわけやけれども、いわゆる医療を初めて何年になられるのですか?
竹本 15年…。16年目ですかね。
蓮風 いいとこですね。ああ、なるほど・・・。
竹本 そうですね。最初は一生懸命。こんな病気には、こうやっといたらいいよ。こうやっといたら問題ないよ。今で言うスタンダードというかマニュアルみたいなのを、やってきたと思うんです。このマニュアル治療でかなりの部分がカバー出来るんですが、実際に僻地でいろんな問題にあたると、(マニュアルだけでは対応できないケースがあるので)どうしたらいいのかというのを考えていくようになりましたし。
蓮風 その部分ですよね。教科書通りをはずれてそういうものが見えたと。その延長線上で漢方・鍼灸もやられたということですね。
竹本 教科書の奥にはもっと詳しいものが書いてあったかもしれないんですけど、僻地診療ではそういう原点みたいなものを勉強させてもらったと思います。
蓮風 非常に大事なことだと思いますね。で、あの、鍼とのなれそめみたいなものは…?
竹本 はい。その(診療所に置いてあった)ノイロメーター(前回参照)と、「北辰会」に入会したということも大きな所ですね。確かに、体表観察でいつも綺麗に分かるとは言えないんですけれども、問診や診察から病態を想定して鍼を打って、思った通りに上手く行った時は「よっしゃー」と思いますよね。これ面白いんですよね。
藤本先生も釣り好きですけども、釣りもこの時期 この風…なら、あの辺に行けば、きっと釣れるやろう、餌はどうするとか、流す深さはとか、いろいろ考えますよね。そして、最終的に大物が釣れる。こういうのが面白いですね。鍼や漢方も、釣りと同じように、作戦の組み立て、そこに技術もあって、同じだと思うんです。こういうことが、楽しみというか、面白くてはまるというか。
蓮風 なんか感性的に先生は漢方・鍼灸になんちゅうか十分なじむものをもっておられるみたいですね。
竹本 それだったら嬉しいです。<続く>