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藤原昭宏さん(写真右)と藤本蓮風さん(同左)=奈良市「藤本漢祥院」
鍼(はり)の力を探求する「蓮風の玉手箱」をお届けします。医師で「藤原クリニック」院長の藤原昭宏さんと、鍼灸学術団体「北辰会」代表で鍼灸師の藤本蓮風さんの対談も中盤に入ってきました。6回目となる今回は藤原さんが鍼灸の「面白さ」について語ってくださっています。西洋医学の立場からは非科学的に見えるようなことも実は理論や実践を積み重ねた事実であることに感心されているようです。蓮風さんがその大本となる哲学についても語っています。(「産経関西」編集担当)
蓮風 100億円やると言われたら、先生ならどんな病院を作ってみたいですか。心・魂を中心にする医学でなきゃいかん、という方向性は見えていますよね。
藤原 そうですね。私はね「北辰会」方式の問診は非常に大事だと思います。
蓮風 そうですね。先生は最初に来られたころ、問診に、とても感動しておられましたね。
藤原 はい。
蓮風 「これだけのことを普通は聞かないんや」とおっしゃっていましたね。確かにあれは蓮風流のひとつの人間観が根底にあって、こことここは聞かなあかんぞと出してるわけなんですけれども。女性カルテもあるし、男性カルテも作ってるでしょ。これも私のひとつの人間観。鍼灸病院を私の構想で作りたいと思うんやけれども、是非ともお手伝い頂きたいと思います。
藤原 ありがとうございます。だから、そういう問診は、その人自身を個人として人間として大切にしているんだというひとつの現れだと思うんです。
身体全体を診ましょうと言って、次から次へ、この検査、あの検査、この検査、ずっと全身検査しますよと言って各科をまわってと、結果がどうだったというのも大事ですけれども、それよりも「あなたの人生はどうでした」「あなたの今までの生活習慣はどうでしたか?」「これからどう生きますか?」みたいな…。そういうのをずっと時間をかけて聞いてあげる、あの問診ですね。それを聞きながら治療者は病気を治す手だてを探っているわけですけれども、聞かれてる方は「あっ!ここまで丁寧に自分の人生を聞いてくれる人っていない」って思うじゃないですか。
蓮風 賢い患者さんは問診の中で「私、ここが間違っていたんだ」と気づくんですよね。
藤原 ああ、それ、それ分かります。
蓮風 そういう風に大事なこと聞いているんだろうと思います。そういう事を通じて、人間存在というものを意識する医学のひとつが鍼灸なんですけれども、よりいっそう直接的に言うと、鍼のどこが面白いですか?
藤原 うーん、より直接的にですか…。
蓮風 例えば(手の背側の親指と人さし指の根元にある)「合谷」(ごうこく)に鍼を1本刺して、歯の痛みをとってしまうとかありますよね。
藤原 そうですね、それは西洋医学では全く考えられない。
蓮風 そうですね。その根底にある「臓腑経絡」なんちゅうものは、先生の眼にはどういう風に映ります?
藤原 こちらへ研修なども含めてお世話になって初めて手にさせて頂いた(鍼灸の)本が、先生が間中賞をとられた『臓腑経絡学』*なんですね。 油谷(真空)先生(元・藤本漢祥院の副院長、現在は独立し奈良市・大和西大寺で開院)がプレゼントしてくれたんです。この本は、当時の「北辰会」の定例会の教科書でした。解説されて、勉強するたびに面白さを発見しました。だから鍼灸のどこが面白いかというのは、やはりあの『臓腑経絡学』を通じて「あー、面白い」と思った。「こんなことを考えてやる学問があるんや」と。しかも、それは決して偶然でもなければ、なにかこのへんになんかつけてとか(左右のこめかみを触りながら)頭痛をとるとか、そんな俗説でもないし、確かに古代二千何百年前からの理論がずっーとあって膨大な実践があって、確かめられた学問なんだなあということですね。そこが非常に面白かったですね。
*『臓腑経絡学』は、藤本蓮風がかつて鍼灸学校で教鞭をとっていた頃の授業内容に加え、当時では最新の解釈なども盛り込んだ、東洋医学の基本書中の基本書と言える重要な内容が盛りだくさんである。平成15(2003)年にアルテミシアから出版され、当時良質かつ臨床的に価値のある書籍に与えられる「間中賞」を受賞した。一般社団法人「北辰会」は、2014年度から定例会スタンダードコース(大阪会場、東京会場)で、臓腑経絡学のシリーズ講義が復活開講する予定。(「北辰会」註)
蓮風 さらに言えば、五臓六腑という考え方がありますね。五臓六腑というのは五行の中に関わって関わらない。この背景には実は天の五運(木・火・土・金・水)というのがあります。これ五行そのものですよね? で、この五行だけで全部動くかいうと天だけじゃなしに、陰陽ですから地も無ければいけません。これ六気というんです。地の六気(風、寒、熱、湿、燥、火)、これで6つですね。天の五運は、まぁ古代の一種の天文学です。で、地の六気は地上に於ける様々な現象を説明する、六気論と言います。
天の五運と地の六気が合わさって初めて自然界全ての現象を説明するんです。これを「五運六気」といいます。この「五運六気」がですね、これは大宇宙です。人間の身体は小宇宙であって、その中で五臓六腑となる。
藤原 はい、五臓六腑ですね。
蓮風 こういう哲学を基に色んな実践を経て、科学法則を出していった。だから僕がよく言うのは、西洋医学みたいにお腹を開いて見てこんなんがあって、それに基づく解剖性医学じゃないということ。大本はこの「五運六気」という哲学から起こってるんだということがポイントだと思うんですよね、はい。〈続く〉