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笹松信吾さん(写真右)と藤本蓮風さん=奈良市「藤本漢祥院」
鍼の知恵を語る「蓮風の玉手箱」は今回から岡山・倉敷中央病院初期研修医の笹松信吾さんと鍼灸学術団体「北辰会」代表で鍼灸師の藤本蓮風さんとの対談が始まります。まずは笹松さんが医師を志した理由からお話が始まります。前回までの鈴村水鳥さん(小児科医)もそうでしたが、子供のころの経験が大きく影響していたようです。(「産経関西」編集担当)
【プロフィル】笹松信吾(ささまつ・しんご)1982(昭和57)年、北海道生まれ。札幌光星高校卒業、広島大学総合科学部中退。2012(平成24)年、札幌医科大学卒業。岡山・倉敷中央病院初期研修医(対談当時)を経て2014年から市立堺病院外科後期研修医。
蓮風 「蓮風の玉手箱」へようこそ。先生は私が書いた『経穴解説』(メディカルユーコン刊)をお読みになって「北辰会」にいらっしゃったんですよね。
笹松 『経穴解説』を最初に手に取ったのは、医学生のころなんですけど、その当時から東洋医学が、どういうものかということに興味を持っていて、本屋で面白そうな本を探していました。漢方については興味深い書籍が幾つかありましたが、鍼灸に関しては面白そうな本は見当たりませんでした。
教科書的なことはひと通り書いてあるんですけど、実際に診療している様子というか現場の息遣いがあまり伝わってこない。その中で、『経穴解説』を読むと、実際にどういう風に治療が行われているのだとか、本を書いた先生の考え方や鍼灸に対する情熱が凄く伝わってくる生きた内容の本だと直感的に感じました。
蓮風 臨床の具体性と、この医学の思想性が出とったということなんですね。
笹松 はい。
蓮風 このことについて、後で深くお聞きしますけども、まず何で医者を志したんでしょう?
笹松 僕は元々身体が弱くて、小さいころからよく風邪をひいたり、入院したりしていたんです。そこで、点滴も沢山されましたし、薬も沢山飲まされて、もうこんな辛い思いはしたくないと…。子供のころにかかっていた小児科の先生で一人すごく優しい先生がいて、僕が疑問に思ったことに対しても優しく答えてくれたし、注射も上手で、そういう先生になりたいなと思って医者を志しました。
蓮風 自分の身体が弱いからということで、医学を志したと。自分と同じような人を救ってみたいということでしょうね。
笹松 そうですね。あとは、幼いころの自分が、「この先生に診てもらいたい」と思えるような医者になりたいですね。
蓮風 医療関係の職業は色々あって、お医者さんはそのなかでも代表的なものでしょうけど、その他色々ありますよね。鍼灸もその一つなんですけど、正統な医学というか、オーソドックスな医学を取り敢えずやってみたかったということですかね。
笹松 そうですね。自分が知っているのは、いわゆる西洋医学で、当時は西洋医学といえば医者という考えしか頭になかったので、医者を志してみようと。
蓮風 そうですね。念願の医師になった現在の心境をお聞かせください。志した医者になって、今の時点でのお気持ちというか、これからの抱負みたいなものがあったらお聞かせください。
笹松 はい。まず、やっぱり医者になって良かったと思います。
蓮風 何が良かったですか?
笹松 働いていて身体が辛(つら)いことはあるんですけど、楽しいですね。
蓮風 やりがいがある仕事だと。
笹松 やりがいがあります。何でこんな仕事を選んでしまったんだろうとか、やっていて気持ちが辛いなということはなくて、人と関わるのは楽しいですし、医学の勉強をするのも面白く、やりがいを感じております。
蓮風 そういう意味ではぴったりですね。しっくりいく目的に到達したということでしょうね。
笹松 あと実際に医者になって思ったことなんですけど、直接患者さんの命に関わるということですね。自分の判断一つで、場合によっては患者さんの状態を非常に悪くすることがあるということで、すごく責任感というものを感じております。
蓮風 ドクターと言えば、死亡診断書が書けますからね。ある意味で生殺与奪の権というか、生かしも殺しもできる立場にあるんで、これ大変な仕事ですよね。だけど非常に面白い。
笹松 はい。〈続く〉