蓮風の玉手箱

このサイトは、2011年8月7日~2015年8月29日までの間、産経関西web上において連載された「蓮風の玉手箱」を復刻したものです。鍼灸師・藤本蓮風と、藤本漢祥院の患者さんでもある学識者や医師との対談の中で、東洋医学、健康、体や心にまつわる様々な話題や問題提起が繰り広げられています。カテゴリー欄をクリックすると1から順に読むことができます。 (※現在すべての対談を公開しておりませんが随時不定期にて更新させていただます・製作担当)

カテゴリ: 小児科医・児玉和彦さんとの対話


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初回公開日 2015.1.10

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藤本蓮風さん(写真左)と児玉和彦さん(同右)=奈良市「藤本漢祥院」

 鍼の知恵を語る「蓮風の玉手箱」は今回から、和歌山県岩出市の医療法人明雅会「こだま小児科」理事長で医師の児玉和彦さんをゲストにお迎えして、鍼灸学術団体「北辰会」代表の藤本蓮風さんと対談された模様をお届けします。まず“本番”の前に児玉さんの略歴を以下にご紹介します。

 こだま・かずひこ 小児科医、医療法人明雅会「こだま小児科」理事長。昭和53(1978)年生まれ。和歌山県出身。京都大学医学部卒業。神戸市立中央市民病院(現・神戸市立医療センター中央市民病院)内科研修医、医療法人鉄蕉会「亀田ファミリークリニック館山」家庭医診療科、医療法人同仁会「耳原総合病院」小児科医長などを経て現職。日本小児科学会小児科専門医、日本プライマリ・ケア連合学会認定家庭医医療専門医、同指導医、日本内科学会認定内科医。日本小児科学会、日本小児心身医学会、日本プライマリ・ケア連合学会、日本内科学会に所属。

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 蓮風 児玉先生、「蓮風の玉手箱」へようこそ。

 児玉 お招きいただき有り難うございます。

 蓮風 きょうは、よろしくお願いします。ドクターのゲストには毎回最初に聞いているんですけど、先生はなぜ医者を目指されたのでしょうか。ここらから聞かせていただきたいと思います。

 児玉 はい、そうですね。「なぜ医者に?」っていうのはよく聞かれるんですけれど、うーん、そうですね、父と母が医者だったのと、父方の大叔父が軍医でしたので。

 蓮風 ほー。

 児玉 南方の島で戦死してるんですが、そういう繋(つな)がりもあって、医者というものに対してのイメージがあったわけですよね。

 蓮風 そうでしょうね。

 児玉 はい。ですから、医者を目指すとか医者になると決めること自体はすごく自分にとっては自然なことでありましたね。

 蓮風 はいはい、環境がね。そしてやっぱりお父さんお母さんが患者さんを治していく姿を見られて、やはり良い仕事だなと、そういうことですね。

 児玉 そうです。自宅で診療してたわけじゃなかったので、実際に治してる場面には出会わなかったんですけれども。

 蓮風 あー、そうですか。

 児玉 夜でも求めに応じて出て行ったりとか…。やはりそういう仕事に対する真剣さっていうか、そういうのは感じてました。

 蓮風 それは大きいですよね。やっぱり、親の背中を見て育つというようなことを言いますがね。環境は大きいですね。

 児玉 はい。

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 蓮風 かくいう私も、そういう(鍼灸師の家系という)環境の中で育ったから、鍼灸を目指したということだろうと思いますがね。しかし最初は抵抗あったんですよ。

 児玉 あー、そうですか。

 蓮風 僕らがね、21歳いうとちょうど50年前ですから。非常に(鍼灸の)医療としての環境も良くなかったですね。特に西洋医学のお医者さんにすると、あれはなんじゃというような白い目で見られる。今でもありますけど、それでもずいぶん良くなりましたね。そうするとやはり、ご家族の影響が大きかったと。

 児玉 そうですねぇ。平たく言うとそうかもしれないですが、どちらかと言うと神仏のお導き的な所かもしれないです(笑)。

 蓮風 (笑)

 児玉 なんかこう自分のこう、なんていうか…。

 蓮風 意志というよりも、運命的なものがね。

 児玉 はい、そういう感じがします。

 蓮風 誠にそうだろうと思います。先生は小児科・内科がご専門です。『HAPPY!こどものみかた』(日本医事新報社)という著作やDVD『こどものみかた シミュレーションで学ぶ見逃せない病気』(ケアネット)の制作にも関わっておられます。お仕事に非常に熱心ですが、面白いですか?(笑)。

 児玉 あー、そうですね(笑)。面白いのは面白いです、やっぱり。ただ、僕は医者になって12年目になるんですけれど、面白さで言うとですね、やっぱり臨床をしてるときの方が面白いです。本を書いたり、セミナーをするのもすごく楽しいんですけども、すごく落ち込むのも、すごく幸せな気持ちになるのも両方ともやっぱり臨床ですね。

 蓮風 あー、そうですか。患者さんに出会って、患者さんの病気を治そうと格闘してる時。

 児玉 そうですね。すっごく上手くいかなくて落ち込むこともあるんですけど…。

 蓮風 あります、あります。

 児玉 やっぱりすごく、あぁやったなって思うのもそっち側で。

 蓮風 悲喜交々(ひきこもごも)があるわけですね(笑)。〈続く〉

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藤本蓮風さん(写真左)と児玉和彦さん(同右)=奈良市「藤本漢祥院」

 鍼の知恵を語る「蓮風の玉手箱」は和歌山県岩出市の医療法人明雅会「こだま小児科」理事長で医師の児玉和彦さんと、鍼灸学術団体「北辰会」代表の藤本蓮風さんとの対談の2回目をお届けします。前回は児玉さんが医師となった環境の話題から始まりました。『HAPPY!こどものみかた』(日本医事新報社)という本やDVD『こどものみかた シミュレーションで学ぶ見逃せない病気』(ケアネット)の制作にも関わりながらも、臨床の悲喜交々(ひきこもごも)のなかに面白さを感じるとお話しになりました。今回は、その続きとなります。(「産経関西」編集担当)

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 本を書いたりとか、DVDをつくったりする仕事もすごく刺激的で面白いんです。両方ともすごく楽しんでやってます。

 蓮風 なるほどね。

 児玉 なんですけど、ちょっと(臨床とは)種類が少し…。

 蓮風 違いますか?

 児玉 違うかなぁと。

 蓮風 先生は僕の目から見ると、東洋医学的なね、物の見方、考え方…。特に人間を見つめる目が僕によく似てると思うんですけれども、結局、臨床の中で患者さんが良くなるということは、どういうことなんですかねぇ?

 児玉 先生に最初にお会いした時にそのお話をしましたね。その時はたぶん「僕が必要でなくなることだと思う」とお答えしたのではないでしょうか。医者が必要じゃなくなるっていう状態が患者さんが良くなる、治るっていう状態なんだろうなっていう風に思ってまして…。

 蓮風 あー、そうですか。

 児玉 ええ、今はまたちょっと考え方が少し変わってきてまして。

 蓮風 ちょっとずつ変わりますでしょ。

 児玉 はい、変わってきてますねぇ。

 蓮風 やっぱりねぇ、色んな患者さんに出会って自分の世界が変わっていくからでしょうね。

 児玉 先生にお会いして色んなお話をさせていただいたのが一番大きいかと。

 蓮風 いやいや(笑)。
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 児玉 やっぱり「藤本漢祥院」で学ばしていただいたことっていうのは、医学そのものもそうですし、哲学的って言うと変かもしれないですけれど、どういう風に患者さんっていうか、人間を捉えるかっていう所とか。

 蓮風 そこ、そこですね。人間観ですね。

 児玉 そういう所をですね、すごく学ばせていただいてます。

 蓮風 いやぁ、嬉しいですわ。優秀な方ですからね。せっかくここまで西洋医学をやっておられて、東洋医学をもっと深く学ばれたら、恐らく先生自身がさらに変わっていくだろうと思います。今の段階で、ここまで来ているのですから、まだまだ変わっていかれるはず。それは僕も楽しみなんです。

 児玉 有り難うございます。

 蓮風 ちょうど自分の子供を育てるような気持ちで、色々と「こんなんもやれ」「あんなんもやれ」「どう考えますか」っていう課題を出していくのも楽しい。そして、その中で先生が大きくなられるのを見るのが一番の楽しみです。ただ、そういう意味で長い付き合いになると思います。よろしくお願いします(笑)。

 児玉 有り難うございます(笑)。先生も同じだと思うのですが、僕らが本を書くっていうのは自分たちが信じる医療を世の中に広めていきたい、より良い医療を受けられる人が増えていってほしいっていう思いからなんです。やっぱり先生が僕らに色々と伝えてくださるということからも、そういう思いをすごく感じてまして、そういう面でも勉強させていただいています。

 蓮風 なるほど。〈続く〉


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藤本蓮風さん(写真左)と児玉和彦さん(同右)=奈良市「藤本漢祥院」

 鍼の知恵を語る「蓮風の玉手箱」をお届けします。和歌山県岩出市の医療法人明雅会「こだま小児科」理事長で医師の児玉和彦さんと、鍼灸学術団体「北辰会」代表の藤本蓮風さんとの対談の続きです。3回目の今回は児玉さんの鍼灸への感想から話が始まりますが、児玉さんにとっては「鍼灸=蓮風さん」のようで、出会いの最初から、病に向き合う姿勢に影響を受けられたようです。(「産経関西」編集担当)

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 蓮風 ご縁があって児玉先生は我々「北辰会」のドクターコースで勉強されています。(蓮風さんが奈良市で開院している)「藤本漢祥院」で週1回の研修もされて、実際に鍼治療も受けておられます。そういう経験を重ねておられる中で、この医学についてのざっくばらんな感想を聞かせていただきたい。

 児玉 鍼灸に関してっていうことですよね。

 蓮風 そうですね。鍼灸、漢方薬…一般論でもいいし、鍼灸そのものについてでもいいし。特に先生は西洋医学専門でずっとやってこられた。その中で、まぁ言うたら「異邦人」と出会ったわけですよね(笑)。

 児玉 そうですね(笑)。

 蓮風 その異邦人がいかなるものか、ということ。これは今後、変わっていくだろうと思いますけど…。今の時点で先生から見て異邦人がいかなるものかというのを我々は知りたいということなんです。

 児玉 私が(東洋医学を)専門の先生に就いて学ぶのは蓮風先生が初めてなんです。こんなに長い期間ですね、親身になって教えていただいたのは初めてなので、私が持ってる東洋医学の考え方っていうのは、藤本蓮風先生そのものなわけなんです。なので、東洋医学一般とかってなってくると、ちょっと正直言って分からないです。けれど、蓮風先生の診療を拝見してて、先生の印象は、最初3年前にお会いしたときと全く変わらないです。最初に先生の診療を拝見したとき「あっ、この人は本物の医者だな」と思ったんですよ。

 蓮風 あ、そうですか。嬉しいですね。

 児玉 これを言うと何ていうかちょっと失礼な言い方かもしれないんですけど…。

 蓮風 いやいや。

 児玉 何ていうか、この人は本物。僕も色んな所で色んな医者に出会ってきましたし、有名な先生の診療も見てきましたけれども「あ、この人は本当の医者だな」と感じました。結局、人を治す気迫に満ちてるって言うんですかね。

 蓮風  あー、気迫ね。あ、そうですか。

 児玉 そういう所をこの3年間ずっと学び続けてるというか、そこが一番大きいかなと思ってます。
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 蓮風 なるほどね。特に僕の鍼の場合は、著しく鍼の数が少ないですね。こういうことについてどうですか? 奇異の念が最初はあったと思いますが。

 児玉 ええ、まぁ、そうですね。奇異と言うか、私は鍼の治療を見たのが初めてだったので。

 蓮風 あー、そうですか。

 児玉 たくさん刺す鍼を見たことないんですよ。

 蓮風 あはは!それはね、よかったですね(笑)。

 児玉 テレビで見たくらいのもので、実際にはなかった。それまで私が接してきた鍼の治療というのは、鍼治療に保険適用をするときに診断書を書くくらいでした。

 蓮風 はいはい。あれはねぇ、色々と考えがあるんだけれども。日本の医療の中では、患者さんにできるだけ負担がかからんようにするためにはそういうことが必要なんですね。それはあくまでも医者の方の監督下に置くという日本の医療制度の表れなんです。だから(鍼灸師には)独立した医者としての権限がない。これはしかし現段階では仕方がないかなと思うんですよね、将来は独立した東洋医学の医者、中国がやってるように「中医」と「西医」という関係になれば一番いいんだろうけども、今の段階では無理ないなと思います。

 児玉 あー、そうですか。<続く>

 ※現在の日本の医療制度では(1)神経痛(2)リウマチ(3)腰痛症(4)五十肩(5)頚腕症候群(6)頚椎捻挫後遺症、その他、これらに類似する疾患などに限り鍼灸治療への保険適用が可能。患者は、これからかかろうとする鍼灸院に問い合わせて用紙(同意書)をもらい、その用紙を治療を受けているかかりつけの医院・病院などに持参して必要事項を記入してもらう。

 または同意書の代わりに、病名、症状及び発病年月日が明記され鍼灸の治療が適当であると判断できる診断書を書いてもらう。その記入済みの書類と保険証、印鑑を鍼灸院に持参すれば、保険適用での治療が可能となる(ただし鍼灸院ごとに保険の取扱いが可能かどうかの確認が必要)。長期間にわたり治療する場合は3カ月ごとに医師の同意が必要となる。(「北辰会」註) 

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藤本蓮風さん(写真左)と児玉和彦さん(同右)=奈良市「藤本漢祥院」

 鍼の知恵を語る「蓮風の玉手箱」は和歌山県岩出市の医療法人明雅会「こだま小児科」理事長で医師の児玉和彦さんと、鍼灸学術団体「北辰会」代表の藤本蓮風さんとの対談の4回目です。前回、蓮風さんは鍼灸師が医師の監督下に置かれている現状を変えて将来、独立した「東洋医学の医者」としての立場を獲得する必要性を強調されました。今回は、その続きです。(「産経関西」編集担当)

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 蓮風 鍼灸師になるには専門学校の場合、3年間勉強するんだけども、たかだか3年で医学はできない。西洋医学は最低6年間必要ですよね。それが鍼灸師育成の実態だから仕方がないですけれども、鍼灸師が(西洋医学の)医者と同様の独立した判断ができる、そういう社会システムを作っていくべきだと思っております。そういう中で、私の診療を見て、西洋医学と比較なさってですね、現在の先生の鍼灸への考えはどうなんですか。


 児玉 うーん。治療効果に関してですよね。

 蓮風 そう治療効果も含めて。治療法、治療効果、そして(西洋医学の診断にあたる)診立てとかね。

 児玉 あぁ、診立て。

 蓮風 全然違いますよね。

 児玉 そうですねぇ、やっぱり、違う部分が多いですね。

 蓮風 そうですね、同じような部分もないことはないけど、どっちかいうと違う部分多いでしょ? だから先程(鍼灸師を)「異邦人」という言葉で表現したんだけども。


 児玉 先生はそう、おっしゃいますが、僕は(「北辰会」の)先生方の治療を見ているときは、あまりそういう風に意識しないんです。先にも言ったように鍼灸治療に保険を適用するための診断書を書いてた時は違いました。

 蓮風 そらそうです。

 児玉 これは何なんやろうって。まだずーっと痛がってるのに、もちろん西洋医学の、例えば整形外科などで治せてないっていうのも悪いのかもしれないんです。けれど、続けて行くっていう医療って、これは何なんやろうって、この人たちは何にお金を一体払っているんだろうって。

 蓮風 そこに異邦人を感じましたか()

 児玉 ええ、そこは違和感が実はありました。

 蓮風 なるほどねぇ。

 児玉 「北辰会」に入ってからは、あんまりそういうことは感じないですね。

 蓮風 あー、そうですか。

 児玉 同じように患者さんを治していくっていう、方法論の一つというか、向いてる方向は一緒なので。全体を診るか、部分的に絞っていくかなど、方法論の違いってのはあると思うんですよ。

 蓮風 ということは、児玉先生は、「北辰会」や私と出会う前は、鍼灸に関してどう思われていたんですか?

 児玉 まぁ正直言うと「治らないな」って思ってました(笑)。

 蓮風 これは強烈なパンチですな(笑)。いやぁ、実際そうやと思います。

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 児玉 いえいえ(笑)。やっぱり毎回診断書を書かないといけないっていうことは、ずーっと通ってるってことなので。治ってないっていうことなんだろうなっていうのは思ってました。

 蓮風 だいたいどういう病気でしたか? それは。

 児玉 膝の痛みとか、肩の痛みとか、腰痛症とかですね、そういうような病名になってきますね。

 蓮風 どっちかというとそういう鎮痛には非常に鍼はよう効く方なんですけどねぇ。

 児玉 はい。

 蓮風 やはり鍼の力が発揮できていない実情をみると、まさしく鍼灸医師を育てるような環境を作って行かないといけませんね。

 児玉 やっぱり思うのは、西洋医学には外科とか内科とか小児科とか色々あるじゃないですか。鍼灸って西洋医学に置き換えると、外科やと思うんですよね。術者の依存性が非常に高い。

 蓮風 あー。腕のあるメスであれば上手く行くけど、下手なやつはあかんと。

 児玉 はい、そうなんですよ。外科の手術って、僕も麻酔とかかけたことあるんで分かるんですけど、上手い人がやれば全然出血しないです。これは言ったらあかんのかもしれないけど…。でもそういうのはみなさんも、ご存じのことだと思うんです。やっぱり手を動かすものですから、上手い下手ってありますからね。

 蓮風 僕はね、出会ったドクターたちにはそういう話をするんですよ。実際、鍼はやり方だって違うし、治療する人間が違うと鍼も違うんだっていう話をしたら、だいたい「西洋医学はできるだけ、そういう名人を作らないことにしている」とおっしゃる。つまり(どの医師が治療しても原則的には平均的な結果が保証できる)一般化された医療ということですよね。

 児玉 まぁそうですねぇ、はい。

 蓮風 だけど、明らかに外科なんかでは上手下手がはっきりするわけで、それを平均化することできないですよね。

 児玉 無理ですね。〈続き〉


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藤本蓮風さん(写真左)と児玉和彦さん(同右)=奈良市「藤本漢祥院」

 鍼の知恵を語る「蓮風の玉手箱」をお届けします。和歌山県岩出市の医療法人明雅会「こだま小児科」理事長で医師の児玉和彦さんと、鍼灸学術団体「北辰会」代表の藤本蓮風さんとの対談の5回目となります。前回は西洋医学の外科手術の腕前の上手下手があって医師によって差が出てくるという話になりました。今回はその続き…。では、内科の医師の診断・治療には“上手下手”はないのか、という点についての児玉さんの見方から始まります。(「産経関西」編集担当)

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 児玉 実は内科でもそうなんです。

 蓮風 あぁ、そうですか。

 児玉 たとえば、僕が「藤本漢祥院」でカルテを拝見して、いやこれは(患者さんを診察していた医師の)診断が間違えてるっていうことがあるじゃないですか。やっぱり内科でもきっちり診断して治療できる医者と、そうでない人がやっぱりいますし、その違いはプロじゃないと分からないかもしれないです。

 蓮風 そうですよね。

 児玉 はい。なので、よく東洋医学の話の中でステロイドの使い方がどうこうっていうのが出るんですけど、これはですね、やっぱり使い方が間違えてて上手く行かないっていうケースも、けっこうたくさんありますね。

 蓮風 あぁ、そうですか。

 児玉 アトピーの皮膚への塗り方一つにしても、良くなっていれば、ステロイドも、やめられるのに、塗り方が上手くないために、何年も塗り続けてる例がありますね。それは指導が悪いんですよ。西洋医学の医者の腕が悪い。

 蓮風 そうですね。その腕に関して我々が考えてるのは、昔はね、一人の名人がおったら、弟子たちが100人、1000人おったんですよ。で、その名人の人がこうだって言うと絶対そうなんです。やけどね、僕は東洋医学をこれから西洋医学と肩を並べるほど個性的な医学にするのであれば、名人芸は大事なんやけど、名人芸やったら(再現できる人間が)限られてくるから、限りなく名人に近い一般化した学問なり、技術なりを作ろうとしてるんですよね。だけど、最終的には名人芸があるかないか言われたら、やっぱりありますよ。

 児玉 ありますね。

 蓮風 それはもう否定せんと肯定したうえで、でも社会的に認められて、そしてまさしく患者さんが救われるためにはどうあらないかんかということを考えたときに、限りなく名人に近い人たちを作って行くというのが理念なんですよね。しかし、ステロイドの話は…。あー、そうですかぁ。日本の医療の、これまた衝撃的な話ですね。うーん、ステロイド一つでも使い方一つで、ずいぶん違うんですねぇ。

 児玉 違いますね。

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「こだま小児科」での児玉和彦さん。
診察室では基本的には白衣は着ないという=和歌山県岩出市 


 蓮風 今後、診療に鍼治療を取り入れられると思いますが、どのような点に意識を置かれますか?

 児玉 そうですね、うーん。

 蓮風 たとえば、この間先生がご質問なさった、ゲップが頻繁に出るケース。

 児玉 あぁー、そうですね、あれはなかなか難しいケースでした。

 蓮風 ああいう病気はどっちか言うと、西洋医学あんまり得意じゃないですよね。

 児玉 えっとね、西洋医学で治せないこともないんです。恐らく。そういう種類の薬があるので、使ったら治せたと思うんですけど。その場合はちょっと正直、ゴールが僕の中で見えてこない、何カ月くらい治療しないといけないのかが、僕の中でイメージしきれなかったんですよね。

 で、今までここ(藤本漢祥院)で拝見していますと(このケースでは)鍼や漢方の方が早いっていう風に思ったので、相談させていただきました。そういう中で自分はじゃあどういう風にして治療を選択したのかと、振り返ってみるとですね。何て言うんですかねぇ。病気を敵だとすると、その敵に一番効果のある武器を選ぶって言ったら変ですけど…。まあ、たとえば、魚釣りでしたらルアーですね。適切なルアーを選ぶってあるじゃないですか。ま、そういう感じですかね。

 この病気には当然西洋医学の方が適切なケースっていうのが正直言ってあるんです。一方、これはちょっと東洋医学の方が得意だろうとかね。で、どっちか分からないけど、どっちか言うたら今までの経験からこっちだろうと…。で、自分がやる場合はそうですけど、たとえば、マグロ釣りの名人がいる場合ですね。マグロを釣りに行かなあかんと思ったら、その人に紹介する、任せる。で、結局僕たちのやるべきことは、最良の医療をその人に届けることであって、自分の持ってるものに拘(こだわ)ることではないと思うんです。

 蓮風 これは逆の立場においても同じですね。僕らで治せんこともないけど、これはやはり西洋医学の方が上手くやるだろうし、と思うことがあれば、そちらへ送りますよ。それが本当の医療じゃないですかね。

 児玉 そうですよね、思います、はい。

 蓮風 そりゃあ自分の医療やから絶対誇りを持ってるけど、頑固(がんこ)に意地を張って患者さんが迷惑を受ける、これ一番不幸なことです。

 児玉 そうですね。

 蓮風 だから、それはあると思いますねぇ。で、先生が内科、小児科で、この鍼を使う場合、患者さんをある程度説得せないかんですねぇ。

 児玉 うんうん、はい。〈続く〉

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