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藤本蓮風さん(写真左)と児玉和彦さん(同右)=奈良市「藤本漢祥院」
鍼の知恵を語る「蓮風の玉手箱」をお届けします。和歌山県岩出市の医療法人明雅会「こだま小児科」理事長で医師の児玉和彦さんと、鍼灸学術団体「北辰会」代表の藤本蓮風さんとの対談は今回で12回目。終盤に入り、児玉さんが率直に蓮風さんに質問しています。医療者と患者との「相性」という、ある意味、科学的とは言えない話も出てきます。でも治療には患者の回復への努力も重要でしょうから“やる気”を引き出すのは単なる医学の発達や技術の問題を超えた重要なことなんでしょうね(「産経関西」編集担当)
児玉 誰がどう考えても、先生は達人だと思うのですけども、先生の治療院(藤本漢祥院)に年間延べ何万人か来られる患者さんのうち全くの初診の患者さんの何%くらい治せるのでしょうか?今の時点で。
蓮風 今の時点で。初診が来たら?
児玉 かかる時間は様々だと思います。1年かかる方もいれば…。
蓮風 一応治せるということで?うーん…一切合財を入れておれば、80%くらいかな。
児玉 すごいですね。
蓮風 そうですか。80%は治していると思います。
児玉 そうなのですね。
蓮風 後の20%はいろいろあるんですわ。まずね、続けて来てくれるかどうかということ。それからどんだけこちらが腕を持っていても、人間同士の呼吸が合わないことがあるんですよ。そしたら治しにくいね。それから全くこちらの腕が悪くて治せない部分もまだまだありますから、そういうことを考慮すると大体80%くらいですかね。
児玉 すごいと思いますね。すごく参考になりました。続けて来てくれるかということと、人間としての呼吸ですよね、ウマが合うとかなんとか。続けて来てくれるというのは、続けて来てくれることや、続けて来てくれないこと自体も医者の腕の中に入ると思いますか。
蓮風 そうですね。だけど、腕があってもどうにもならんこともあるし。先生が自分はこうありたいと思っても、そうじゃない神様の力みたいなものによって、私は医者になったというようなことを仰ってたように、そういう部分はあると思います。
しかし人生で起こったことはすべて無駄はない。意味がある。そういう意味では、出会いも別れにも、また意味がある。
だから昔はごっつい気にしたのです。「これだけ、わしが治してやると思って、(治療を)しようとしたのに来ない」ってね。頭にきて、カッカして…。だけどね、これには深い意味があるんだと…。その深い意味をね、歳がいくと気付きます。どちらかといえば、今でもカッカする方ですけどね。だけどよく考えると、患者さんとの出会い・別れ、そして上手くいっての別れ、いろいろありますけれど、人間だけの力でどうにもならないところがありますな。そう思い始めたらね、さらにうまく運命が私を自由にさせてくれますね。実に不可思議な世界ですわ。
児玉 今の流れでもうひとつお聞きしたいのは、僕は今(医師になって)12年目で、ちょうど干支が一周りしたのですけども、先生が鍼灸を始めてそれくらいの頃、どれくらい(の患者さんを)治せると思っていましたか?
蓮風 鍼をやって12年経ったら?
児玉 今8割治せるということは、これすごい率やと思うんですよ。
蓮風 12年ではね、まあ一人前になったな、というくらいですね。
児玉 その時ってどれくらい治せているものなのですか?もしかしたら覚えてらっしゃらないかもしれないですけど。
蓮風 50%。
児玉 それで半分くらいですか。
蓮風 なんか先生、ニコニコしている(笑)。
児玉 いや僕は50%治せているか、ちょっと分からないですけど。確か、先生が仰られていたと思うんですけど、東大の教授が退官する時に自分の診断が合ってたのは半分にも満たなかったという話がありました。
蓮風 言ったことありますね。
児玉 その当時は大学に入院して亡くなられた方全員を解剖されておられたので、たぶん実際解剖してみてのことだと思います。名人と言われた人でも、確か半分くらいやったと思うんですけど。80%というのはすごいと思います。
蓮風 自信ありますよ。
児玉 僕自身は50%というのはちょっとあれですけど。
蓮風 それも運命ですよ。やっぱりいろんな患者さんがいて、いろんな病気があっても、そのすべてが来るわけじゃない。私が50年やったといったところでですよ、セレクトされた人が来ているわけです。だからその中での80%やから大したことない。<続く>