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対談する村井和さん(写真右)と藤本蓮風さん(同左)=奈良市「藤本漢祥院」
「鍼(はり)」の力を探る「蓮風の玉手箱」は今回が藤本蓮風さんと村井和・和クリニック院長の対談の最終回となります。東洋医学というと、論理を超えた神秘的な印象を持たれている方も少なくなくて、それが不信感につながったり、反対に妄信的な信頼感を抱いたりするケースもあるようです。しかし、村井院長のお話をうかがうと、まず「鍼が効いた」という実体験に基づいた東西両医学の長所・短所が浮き彫りになって医療について考える新しい視点が与えられた気がします。対談全体を振り返ってみると、やはり医療に携わる人々は東西の「垣根」に関係なく患者を思いやる気持ちが患者の癒やしにつながり、患者の側も謙虚に自分の病に向き合う態度が必要なのだと思いました。(「産経関西」編集担当)
内弟子 治療が終わったら(ふだんの生活上の注意などの)養生指導をされると思うんです。西洋医学的な病院でも、通っているとか、投薬を受けている場合に、どうしても患者さんは西洋医学的な見解で説明を受けていると思うんです。で、こっち側としては、東洋医学的な説明で、どこがどう悪いというような話をすると思うんです。僕らは東洋医学的な話をすることはできても、西洋医学的な部分ではドクターと比べてわからないことが多いんです。でも村井先生はどちらもわかると思います。そういった説明をする時に、先生はどういう風にされますか? 患者さんとしては東洋医学的な説明は分かりづらいんじゃないですか。
村井 私も、鍼がどうして効くとか、そういう話になると難しいんですけど、東洋医学って自然に則しているところがあるので、東洋医学的な養生法の方が、納得してくれる人って意外と多いように思いますね。東洋医学の方があまりコロコロ変わらないので、私も安心して説明ができるというのがありますね。西洋医学的なことは、また変わるかもしれないなって思うし、自分で納得できない説明はしたくないので、一応、西洋医学ではこうなってて、東洋医学ではこう言うんですよという感じで、両方説明したりするんですけど。
内弟子 東洋医学とか漢方なら何でも身体に良いって思いこんでる人が多くて、漢方薬はなんでもマイルドに効くという風に考える方とか結構多いんです。例えばカフェインの取り過ぎはだめですよという話をした時に、じゃあカフェインの入っていないものだったら何でもいいと思いこむ。生姜の入っている紅茶だろうが、牛蒡茶だろうが何でもいいとか、そういうことを聞いてくるんです。
村井 ご苦労なさっているんですね(笑)。
内弟子 結構大変なんですよ(笑)。
蓮風 それはね、やっぱしキチッとした東洋医学の食養の本がないからです。何でもかんでも生姜がいい、身体を温めたら何でもいいっていう。そんなことないわけで、陰陽から言うと全くおかしな話です。そういう本もやがては書かないかん。陰陽の食養の表みたいなものを作って素人を啓蒙しないかんし、専門家にも使ってもらわないかんね。東洋医学は、2500年前の『素問』『霊枢』で完成はしているんだけど、現代の世の中に生きる『素問』『霊枢』に従う食養みたいなものが、出てこなくちゃいけない。それをやっぱり、みんなで作っていかなくちゃいけないね。
2500年前の人達と我々は食べ物が違うんだから、その中で陰陽を使おうと思えば、具体性に富んだね、そういう本が必要だなと思いますね、つくづく。それから、先ほども重い肝硬変の患者さんを診とったら、腹水が溜っているんですね。そしたら利尿剤を使っていて「使い続けていいか?」って聞くんです。私は「本当はいかん」って…。元々、癌とか肝硬変で水が溜るのは、熱を冷まさんがために、水が溜る。ちょうど膝を打ったら水が溜りますよね。
で、西洋医学だったら水を抜いて、そこへステロイドを入れるわけやけど、水を抜いちゃいかんねん、本当は。何でかというと冷やそうとしているから。水抜いたら歩きやすくなって、腫れが取れたら楽にはなる。だけど、水が溜ること自体は、実際は生体が(自身を)守ろうとしているので、水を抜いたら悪いわけです。従って、肝硬変の腹水もですね、利尿剤で、あんまり出さん方がええと…。内熱を助長するからね。というような理論もやっぱり出てくるわけや。だから西洋医学を知った人が東洋医学を応用する場合は、やっぱりそこらあたりの陰陽的な研究も必要だなという気もするんです。ぜひともこれ、ドクターコースの先生方にそういう意見を出し合ってもらって、この薬はこういう風に効くんだよっていう話をして貰えればね、我々も陰陽的に説明できるなと、こう思っております。
「産経関西」編集担当 村井先生が今回の対談で、ご自分の体調が悪くても、患者さんに鍼灸治療をすると、ちょっと自分が楽になると仰ってたじゃないですか。人間と人間の関係の中で相手のことを思えば、お互いに癒やされるような作用ってあるのかも、と思いました。互いに痛み分けをできるようなものっていうのは、東洋医学の根本思想のところにあるんですか? そうなら、お互いに憎みあうというのは個人でも国際関係でも不毛なこととも言えますね。
蓮風 一種の「気」が働いていると思います。で、それも言葉だけでやったらだめやけども、心を込めてやると、「気」というのはそれこそ、いたわりにいきます。そうすると本当に受けた方は、それを感じることができる。だから、西洋医学では(対話による)ムントテラピーというのがあります、「口療治」っていう。だけど、もっと深い意味で東洋医学は言っているわけです。「気」を動かすから。単に口で安心さすってことじゃなしに、そういうもんが行き交いする。それは、個体内部にもあるし、外界にもあるし、それぞれが持っている。
だから、もともと「気一元」ですから、それが交流するのは当たり前なんであって、だから問診で長く色々と聴くこと自体が、実は気の交流に繋がっているんですね。だから僕は電車乗ったらね、常に前・横・後の人の気を感じます。「あっ、この人のそばにおったらいかんな」と思ったら車両変えますよ。必ず良くないことが起りそうな予感がするから。だから波長が合う、合わないっていうでしょ。あれは当たっているんですよ。だから同じ人間で波長が合わないのは、そばに行っちゃいけないんですね。思いやる心は誠に通じると思いますよ。だから、鍼灸師にせよドクターにせよ、医療現場に関わる者はそういう思いやる心を持っていないと絶対ダメですよ。
村井 そうですね。
蓮風 きょうは良い話ができたのではないかと思います。どうもありがとうございました。
村井 ありがとうございました。<終>
★次回からは、医師の竹本喜典さん(奈良・山添村国民健康保険東山診療所長)をお迎えした対談をお届けします。