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藤本蓮風さん(写真左)と川嶋朗さん(同右)=奈良市「藤本漢祥院」
鍼(はり)の知恵を語る「蓮風の玉手箱」は東京有明医療大学保健医療学部鍼灸学科教授の川嶋朗(かわしま・あきら)さんと、鍼灸学術団体「北辰会」代表の藤本蓮風さんとの対談の8回目となります。今回からは川嶋さんの“専門”ともいえる「統合医療」についての話題に入っていきます。対談のなかで、「統合医療」が生まれたプロセスを聞いた蓮風さんが想像とは違っていたとおっしゃっていますが、お読みになれば蓮風さんのように“誤解”していたことに気づかれる方は多いのではないでしょうか。ある意味、日本の医学が世界の中では歪(いびつ)な道をたどって遠回りしているのかもしれません。(「産経関西」編集担当)



蓮風 「気功」にしても、先生は「怪しい」とかなんとかおっしゃいながらも、自分で体得して効果を検証して、医学者としては、ある意味、当たり前のことをスムーズにやってこられましたね。「統合医療」も、そのひとつかもしれませんが、アメリカで、なぜ発生したのでしょうか?
川嶋 通常の医療ではないものをアメリカではオルタナティブ・メディスン(alternative medicine)といいます。この「オルタナティブ」という言葉は、1970年代に、国の体制が良くないことをアメリカの若者が世間に訴える手段として、奇抜な格好をして町を闊歩しました。ヒッピー族です。この時に(現状以外にも代替可能な選択肢があると)反体制を訴えて「オルタナティブ」という言葉が使われました。似た言葉でオルタネイト(alternate:二者択一)という言葉もあります。
1990年ごろに、一般市民の調査が『The New England Journal of Medicine』 (ニューイングランドジャーナルオブメディスン)という西洋医学の一流雑誌に掲載されました。それによれば、すでに30%を超える人が、民間療法すなわち代替医療を受けていました。
蓮風 ほう。純粋に西洋医学だけをやっているのじゃなしに、いろんなことやっとったと。
川嶋 やはり日本と違って、健康保険制度がなく、普通に医者にかかるとべらぼうに医療費がかかるものですから。
蓮風 アメリカは特にそうですね。
川嶋 はい。お金をかけられないので、病気にならないための手段のひとつだったわけですね。それを受けて、「National Institutes of Health」(アメリカ国立衛生研究所)…日本の厚生労働省にあたるところですが、そこが「Office of Alternative Medicine」(オフィス オブ オルタナティブ
メディスン:OAM)という研究室を1992年に作りました。
まずはオフィスからスタートしたのですが、6年後の98年にナショナルセンターに格上げになりました。要するに国立補完代替医療センターですね。97年に出た『JAMA(Journal of the American Medical Association)』(ジャーナル・オブ・ジ・アメリカン・メディカル・アソシエーション)という雑誌によるともうすでに40数%の人たちが、代替医療を利用している、そして支払っている医療費の半分以上が代替医療であると。ナショナルセンターになり、研究費も論文もうなぎのぼりです。
さて、ヨーロッパですが、ヨーロッパというのは伝統医学をそのまま受け継ぎながら西洋医学をやっていて。たまたま日本がドイツ医学を選んだ時に(今の)西洋医学のみが入ってきて、ドイツの自然療法はまったく入って来なかった。
おそらくですね、あの脚気論争(脚気の原因を食糧内容とみるか菌感染とみるかの論争)で失敗した(軍医の)森林太郎(森鴎外)に代表される当時の医者たちは、自然療法には興味を持たず、輸入しようとしなかったのではないかと思います。外科なり内科なり近代西洋医学といわれるものだけを、取り入れてそれを日本の主流にしてしまったのでしょう。ヨーロッパでは、流行(はや)り廃(すた)りはありますが、近代西洋医学と伝統医療が併存し続けているんです。

川嶋 日本は明治時代に、もともと持っていた伝統医療を国が強制的に捨てさせましたよね。鍼灸も漢方薬も、細々と視覚障害者とか蓮風先生のように代々継いでらっしゃる方々が残しはしましたが、医学の主流からは外れたところに追いやられてしまったのですよね。
でも、アメリカもヨーロッパも補完・代替医療にも注目し、2000年を過ぎたあたりから、もちろん代替医療も良いけれど、西洋医学だって捨てたものじゃないということで、それらを統合した「Integrative(インテグレィティヴ)」という言葉を使った医療が謳われるようになってきたんです。
蓮風 うーん。僕の想像しとったのは、西洋医学やっとって、なかなか問題が解決しないから、西洋医学だけじゃなしに他の医療を使ってみようということだと思っていたのですけど、ちょっと違うのですね。
川嶋 まあ、それもあります。たとえば腎臓病は難治性の病気ですし、当然西洋医学だけじゃどうにもならないことも結構ありますし、ステロイドホルモンや免疫抑制剤といったかなり強烈な薬を使うものですから、自分だったら一時的に使うことはあっても、それを生涯にわたって使うというのは、やはり抵抗があります。
ステロイドホルモンが効く病気というのは、自分の副腎からその必要な量だけステロイドホルモンが分泌されれば、要らなくなるはずであると僕は思っています。多分、こういうことを言っている腎臓病学者、膠原病学者というのは、世界に僕しかいないのではないかと思っているのですが。でもこの理論は間違っていないのではないでしょうか。十分な量の副腎ホルモンが分泌されれば、ステロイドの必要な病気にはかからないし、かかってもステロイドを十分に分泌できる体に戻してあげられれば治るに違いないと思って診療しておりますから…。けっこう重い膠原病でも腎臓病でもステロイドホルモンをやめられるようになった例が、僕の外来では複数件あります。<続く>




















