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奈良・山添村国保東山診療所での竹本喜典さん
奈良・山添村の診療所で医療に取り組む竹本喜典さんと鍼灸師の藤本蓮風さんとの対談も今回で最後となります。僻地ならではの体験が竹本さんの眼を鍼灸に向かせる理由となったようですが、これは少子高齢化が進む日本全体にとっても示唆深いことではないでしょうか。医療費が国の財政に大きな負担となっている現状を考えても、西洋医学を軸とした現代の医療に、もっと東洋医学を取り入れるのはコストを下げる意味でも有効なことかもしれません。おふたりの対談では、病気を癒やすのは「医学」だけでなく社会や人間関係、環境、家庭も大きく関係していることがあらためて浮き彫りになった気がします。(「産経関西」編集担当)
蓮風 僕も鍼を持ち始めて半世紀ですけど、ある意味では失敗だらけですよ。だけど、それを何とか成功にするように努力をしていく。その中で段々と自分の医学、医療に対する考え方が豊かになっていく。これもありがたいことやなぁと思います。
竹本 蓮風先生熱いですから(笑)。
蓮風 ちょっとクーラー入れますか(笑)?
竹本 いやいや(笑)。いつも先生の話を聞かせてもらっていて、熱いなぁと思って聞いております。
蓮風 理想とする病院ができるとしたらどのような病院を作られますか? ご自身がね、ここまで西洋医学を知って、漢方鍼灸もわかって、僻地医療の中から人間とか病気とかが見えてきた。その中から自分が患者さんとして入りたい病院はこういう病院だということを聞かせていただければ。
竹本 そうですね、病院を作ることなんて考えてもいなかったんですけども、僕としては…。治療とか形とかではなくて、人が集まる〈場〉みたいなものが作れたらいいなと思います。病気でしんどい人、病気を克服した人、何となく助けてあげたい人、その家族、何でもいいんです。通りすがりでもいいんですけど、そういう人たちが集まってそこで話をしたりとか、コミュニティとして成り立つような、そんな〈場〉ですね。
蓮風 昔の床屋さんとかお風呂屋さんみたいな?
竹本 そうなんだろうと思います。何となく人が集まれる場みたいなもので。そこに何となく人がいるだけで、癒やされるとか。
蓮風 ホッとする?
竹本 そうですね、面白い人が居たりとか、話をしてもしなくてもホッとして帰れる。別に医療でなくてもいいと思うんですけども。そんな場ができるのがいいと思うんです。どうしたらそうできるかわからないですけども、人の集まる場を。そこには命とかを考えられるようなパーツもあればいいなと思っています。具体的じゃないんですが。
蓮風 いやいや。我々も色々理想を持っているわけですけども、いずれは「鍼灸病院」みたいなものをね、考えていますんで。その折にはぜひ先生にも参加していただいて。
竹本 なかなか面白いと思います。
蓮風 できるだけ薬を使わんとやっていく。東洋医学には「食養」というものがありますよね。本当の意味で陰陽を使ってね、「食養」などができれば一番いいし。それからね、僕が今まで診た患者さんの中ではほとんどがね、まず食べ過ぎ、いらんこと思い過ぎ、それから運動不足。これが三大悪というか、今の人間が病気になる原因の3大柱ね、そういうふうに思うんで、それを解消するようなことをしたい。私は乗馬をやっておりますんで。患者さんをそこそこ治療したら馬に乗せてね、楽しく運動させてあげたい。やっぱり田舎に行かんとあきませんかね(笑)。
竹本 そうですね、これからの田舎の役割みたいなものがもうちょっと出てきて、いい形で田舎が活き活きしてくれば、いいなと思います。田舎の人は都会から見た田舎の魅力をあまり知らないんじゃないかと。まだ都会に追いつきたいとの思いが強いように思います。そういうのがちょっとずつ変わってくれば田舎も生まれ変わると思うんですけども。
蓮風 そうですね。それからやっぱり「食養」という面から言うと、新鮮なお野菜が必要だろうし、やっぱり田舎に行かんとあかんのでしょうなぁ。大体、東洋医学をやるっちゅうのはね、大自然の中に囲まれて自然の動きが分かるということが大前提になりますから。この間から異常気象がどんどん起こってますね、地震とか竜巻とかが。異常気象が起こるということは、当然、人間の身体にも影響出ます。まさしく東洋医学は「人と自然は一体だ」っていうことを言っているわけで、そういうのを大都会ではちょっと分からんのですよね。大都会で実際開業している鍼灸師が多いんで、私はもうせめて植木鉢を置いて四季折々に変化することを悟らないかんということをよく言うんですがね。田舎だとそういうことを考えんでもまさしく自然が教えてくれますよね。そういう自然の動きと、先生どうですか? 患者さんを診とって感じられることはありますか?
竹本 やっぱり東洋医学でいうように病気の時期とか…。春にめまいが多いとか、きれいにハマっていきますね。湿気が増えてきたら湿気っぽいのが増えてきますし、上手いことできているなと本当に思います。ようできたもんやなと思います本当に。
蓮風 田舎に行くと色んな水があるんですけども、水と人の病気との関わりについてはどうですか? 先生今まで経験なさったこと。
竹本 それも東洋医学のことですけども、やっぱり湿気で悪くなるケースは大いにありますよね。山添村ではお酒もものすごい呑まはるんですよ。だから酒を飲んで悪くなる人も多いですね。甘いもの食べて湿気を呼び込んでいる人も多い。
蓮風 赴任された僻地はこれまでに2カ所ですかね?
竹本 あぁ、そうですね。
蓮風 だからあっちもこっちも見たわけじゃないからあれだけども。
竹本 場所によって違います。(以前、赴任した奈良の)下北山村は凄く海に近いんですよ。病気として上手いこと捉えることはできていないんですけど、すごく大らかで暖かい日を浴びて大きくならはってんなぁっていうのを感じますね。そういう意味ではちょっと山深い所になってくると、またちょっと違った感じであるように思います。
蓮風 草木と一緒で育つ環境、日当たりとかね、それから水とか養分とか違うように、人間も育った場所でね。
竹本 (竹本さんが卒業した栃木県の)自治医科大は学生が各都道府県から2、3名ずつ来ますんで、言葉もですけど、凄く気質の違いってあります。北の人はやっぱりきっちりしてる印象ですね。相対的に南の方がのんびりした人が多かったような。みんなそれでまとめると怒られそうですけど(笑)。
蓮風 私も若くして開業したんですけれど、けっこう遠くからも患者さんが来たんです。とはいえ関西が中心なんですけど、同じ関西でも地域によって言葉が違いますね。
竹本 言葉が全然違いますよね。
蓮風 高野山(和歌山県)の方から来る人の言葉、それから紀州でも南と北で全然違うし、だいぶね、方言がいい勉強になりました。その方言がね、実は人間をある程度規定しますね。そういうことが分かってよくモノマネしたんです。(ものまねタレントの)コロッケがね、形態模写っちゅうのをやるでしょ?
それもね、何でやり出したかというと最初はね、膝が痛いとか腰痛とかが多いじゃないですか。それ、どこに力が入っているのかな?って研究するのにはね、真似するんですよ。こういう形で動いているのは股関節やな。これは膝へ来て、しかも膝の内側の方へきているなというふうなことを研究しとったんですよ。それから発展して訛りがね、意外と人間を規定しているなぁと思ってね。有名な「よろがわのみるのんれ、はらららくらりや」※っちゅうの…。
※特に和歌山地方でダ行やザ行がラ行に変化するようで、「ヨロガワのミル飲ンレ、腹ララクラリや」は、「淀川の水飲んで腹だだ下りや」の意味。
竹本 知りません(笑)。
蓮風 いや、あるんですよ。言葉や方言はやっぱり人間を規定していますね。ダラダラした言葉やけど、あの辺りが大らかさもあるだろうけどだらしなさ、そんなんがあるしね。
竹本 温かいですよね。方言って雰囲気がみんなそれぞれのなにか。
蓮風 先生は温かいっちゅうの好きやな(笑)
竹本 好きですねぇ。そういう感じ。
蓮風 そうかと思うと喧嘩腰に喋る、いわゆる河内の方言もあるし。河内も北河内、中河内、南河内とあって、それも全部違うんですよ。面白いなと思ってね。一生懸命研究しとったんですよ。一つずつモノマネしましてね(笑)。
竹本 そうですか。先生がそんな訛りの研究までされているとは。
蓮風 先生も色んなところからこられるなら是非モノマネしてみてね。
竹本 下北山は南北朝時代の関係で、お公家さんの言葉が残っているんですよ。
蓮風 あぁ、そうですか、例えばどんな?
竹本 「先生、膝の注射してたもれ。」って言われましたね。そういう感じ。山添村はどっちかっていうと、三重県の方の訛りとか入っていますね。「やれこわい」とか言っています。びっくりしたら皆。
蓮風 だから言葉というのはやっぱり生活と密着しているから、そこらの人間を規定しますね。あるいは人間がそういう言葉にしていくのかもしらんけども。非常に方言というのは勉強になりますね。
竹本 懐かしいですね。その言葉を聞いたら「あぁっ!」て思い出しますよね、人の事とかも。
蓮風 そうですか。いやぁ今日はなかなか面白い話を沢山して頂いて、それも短時間の間に相当濃厚な話を頂きました。僻地であれ、都会であれ、人間まるごと観察して、自然の状況にも合わせてきっちり治そうとする“温かい”医療が大事ですね。鍼灸医学は、本来、そういう医学であり医療です。ありがとうございました。
竹本 ありがとうございました。<終わり>
★次回からは、医師で、公益社団法人京都保健会・吉祥院病院在宅医療部長の沢田勉さんとの対談です。